9月3日、川崎市に「藤子・F・不二雄ミュージアム」がオープン。日時指定の完全予約制というシステムをとっているが、早くも「なかなか予約がとれない」との声が続出している。いまだ氏の人気が健在であることを示している。
そんな今、藤子・F・不二雄ワールドの主要キャラの1人、ドラえもんの「のび太」が再び脚光を浴びているのをご存知だろうか?
2004年に刊行された『「のび太」という生きかた』(アスコム刊)という本がある。著者は「ドラえもん学」の第一人者である富山大学教育学部名誉教授の横山泰行氏。「生涯スポーツ」を専門に研究を行なっている横山氏は、「ドラえもん」を50回以上愛読するほどの熱狂的「ドラえもんアナリスト」を自認しており、ついに富山大学でも「ドラえもん学」という講座を開くほどになったという。ちなみに藤子・F・不二雄の両氏も富山県の出身であり、土地柄的にも所縁は非常に深い。
横山氏は本書の中で、「のび太という男の子は、実は想像以上に人生を上手に歩んでいるのではないか。その生き方は、現代人にとって大変参考になるのでは」と語っている。勉強もスポーツも苦手。ダメな男の子の代名詞だったはずののび太は、長じて大活躍してヒーローになり、果てはマドンナ・しずかちゃんを射止めて結婚する。そんなのび太の「夢の叶え方」を本書は解き明かしていくのだ。
実はこの『「のび太」という生きかた』という本が、7年後の今年に入って突如として売れ出し、なんと17刷・14万部(9月28日現在)にまで達しているという。さらに興味深いことに、人気に火を点けたのが、実は中学生の読書感想文であったことでも話題を呼んだ。逗子開成中学の3年生(男子)による読書感想文がネットで評判となったことが発端になっているというが、この出版不況において、「ネット時代の奇跡」としか呼びようのない現象と言えるだろう。
彼はその中で、「のび太の生き方を見ていると、大らかに、前向きに、自分を見失うことなく、淡々と生きていくことが大切だと思う……(中略)……希望を持ち続けることにより、心の輝きを失わずに、豊かな人生を送りたいと思う」と熱く語っている。著者の横山氏も、「最終的には、のび太本人の自覚や努力が新しい人生を切り拓いた」と本書の中で結んでおり、そんなのび太の生き様が、現代人の心に響いたと考えられよう。
震災を経て、「どんな困難があっても立ち向かう」という、藤子・F・不二雄作品が持つ普遍的なメッセージが、さらなる輝きを放っているように思えてしかたがない。
(田中恭子/5時から作家塾(R))