「報告」とは、「トラブルを報告すること」である

 だから、私は、部下から「悪い報告」を受けたら、こう言ったものです。
「お、順調にトラブルが起きてるね。さぁ、どうしようか?」

「懐が深い」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。私は凡人ですから、内心では「弱ったな……」「この忙しいときに……」という思いがなかったわけではない。しかし、それを表に出しても意味がない。いや、「損をする」と考えて、合目的的な言動を心がけただけなのです。

 いわば、小心者だからこそ、部下のトラブル報告に寛容な態度を徹底したわけです。突然、手に負えないようなトラブルが噴出するようなことがあったら恐いですからね。そんなことでビクビクしながら日々を過ごすのはゴメンです。それよりも、合目的的に部下と接するほうがよほどいい。

 だから、私は、ブリヂストンのCEO着任早々、部下から「よい報告」を受けたときには、「そんなはずはない。順調にトラブルは起きるんだ。そんな報告は信じないよ。第一、よい報告は必要ない」と返事。最初は一様に「え?」と部下はびっくりしたような表情を浮かべましたが、「順調にトラブルは起きるんだ。だから、報告はトラブルを報告すること」と宣言しました。

 すると、部下は、仕方がないから、特段のトラブルがなかったとしても、ちょっと気になることなどを教えてくれるようになります。それに対して、「そうか。それでどう対応しようとしているのか?」と冷静にコミュニケーションを図って、解決策を共有すれば、部下も「これなら、トラブル報告をしても大丈夫、むしろそのほうが得だな」と思ってくれるようになる。そして、だんだん「社長によい報告は不要。もっぱらトラブルを報告すればいい」ということが社内で広がっていったのです。

 なかには、「社長、やっぱり順調にトラブっていますヨ」と少し嬉しそうにしながら、プロジェクト・フォローアップ会議を開始した者もいました。それを見て少しホッとしたのを覚えています。
 というのは、これはリーダーにとって非常に重要な仕事だと思っていたからです。通常はトラブルが起きたとき、“釈明報告”に膨大な時間を割かれ、肝心なトラブル対応を考えるのが後回しになるものです。あるいは、トラブルを報告するのが怖くて、それを隠す社風になることもある。これは、非常に危険なことです。

 このような事態を避けるには、トラブル報告をポジティブに捉える以外に手はないのです。これさえできれば、全員が一斉に肝心な課題解決の討議を開始することができ、時間をフルに有効に使える。生産性も確実に上がる。トラブルが埋もれるリスクも少なくなる。部下を責めないことは、まさに合目的的なのです。