「蕎麦は赤ワインのように時間や温度で風味や味わいが変わる」
そう考える亭主の十割蕎麦と蕎麦がきは香りも味もひと味違う

 締めには蕎麦と蕎麦がきのどちらかが用意されている。蕎麦がきはほとんど練りこまずソフトに仕上げてある。

恵比寿「丁未 坂」――和食と本格フレンチにワインと蕎麦。ちょっと欲張りな大人の隠れ家粗挽きの蕎麦がきはソフトで舌に蕩ける。蕎麦の香りや味、食感をなるべく失くさないよう、練りを少なめにして仕上げる。

「蕎麦粉のよい香りを包み込んでしまいたい」と、坂さんは「せきざわ」の蕎麦がき用の粉を宝物のように扱う。

 口に入れると舌に蕎麦の実の粒子があたり、喉をもちりとして通るときに香りがふわりと鼻を抜けていく。

 蕎麦は十割で打つ。これも独学で積み上げてきた技術だ。

「蕎麦は赤ワインだと思っています」と蕎麦をテーブルに置く亭主の手が優しい。蕎麦は赤ワインのように時間や温度で風味や味わいが変わるから、それを大事にしたいという。

恵比寿「丁未 坂」――和食と本格フレンチにワインと蕎麦。ちょっと欲張りな大人の隠れ家店主が独学で習得し、十割で打ち上げるせいろ。上品な香り、綺麗な切り口で和と洋の後に相応しい蕎麦になっていた。

 蕎麦が茹で上がった時に、普通は氷水で蕎麦を締める※4のだが、「坂」は秋冬は常温に近い水で洗う。

 かつて昔の職人は井戸水で蕎麦を締めたあとに、常温の汲み水を蕎麦に振り掛けた。これを化粧水といい、“ぱっと蕎麦が華やぐ”とされる。蕎麦の香りだしに有効だと経験的に知っていたのだ。

 坂さんは、蕎麦を赤ワインのように扱うことで、「せきざわ」からの教えの“己一つ”の技術を突き詰めようとしている。

 和の一皿、フレンチの一皿、その間に日本酒を挟むもよし、亭主のアドバイスでワインで乾杯をするもよし。間違いなく、日本中どこを探しても、唯一無二の蕎麦屋だろう。和食もフレンチも好きだという、少し、欲張りなあの人を驚かせようか。

※4 蕎麦の締め:麺類はおおかたそうだが、特に蕎麦は茹で上がったときの水の締め方で固さが変わる。一般的には氷水で洗って締める。氷の無い時代は井戸の水で締めた。締めすぎると蕎麦の甘みが抑えられといわれ、常温水を振掛ける職人もいた。おまじないだという人もいるし、化粧をするともいう。稀に信州などでは常温で仕上げる店もある。締めの温度は職人各自の考え方が出る。

「坂」
●営業案内

恵比寿「丁未 坂」――和食と本格フレンチにワインと蕎麦。ちょっと欲張りな大人の隠れ家
・住所 東京都渋谷区恵比寿2-8-13
・電話 03-5795-1147
・営業 18:00~22:00(LO) ※要事前予約(お昼は予約で営業可) 定休・日曜
●予算:4000~8000円(料理)
●HPこちら     
●おすすめ:先付・前菜・造り・椀の組み合わせ(3990円)をベースにメイン、蕎麦、デザートを自由に付け加えられる。
●酒・料理:日本酒から焼酎まであるが、やはりワインを1本は飲みたい。100本余りのストックがあり、4000円台からあるが6000円~8000円台が充実している。
●訪問:個室感覚だから、大切な人の接待にはうってつけ。記念日にも最適だ。8人以上なら貸切で楽しみたい(要相談)。
●地図こちら

 

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恵比寿「丁未 坂」――和食と本格フレンチにワインと蕎麦。ちょっと欲張りな大人の隠れ家

脱サラしてわずか1年で、蕎麦激戦区の神田で人気店をつくりあげた著者が教える「ワンランク上の蕎麦屋の始め方」。著者が築き上げたノウハウに加 え、人気店への徹底取材で、そのこだわりと秘密を徹底解剖。蕎麦屋の開業準備から、極上店へ育て上げる秘訣まで、店づくりのすべてを惜しみなく公開。

 

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