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震災と原発騒動で下火となった医療ツーリズム
経産省の秘策、“医師の輸出”で復活なるか

週刊ダイヤモンド編集部
2011年10月27日
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 「東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故で、メディカルツーリズムはすっかりトーンダウンしてしまったが、海外進出による方法ならば、まだまだ可能性はある」――。

 こう語るのは、ある有名大学病院の院長だ。

 メディカルツーリズムとは、健康診断や手術など良い医療を求めて患者が国境を越えて移動する“医療のための旅行”だ。

 近年、日本でも「自由診療のために、病院の収入増に結びつく」(首都圏の民間病院院長)として、中国やロシアなどの外国から富裕層の患者を受け入れようとする動きが活発化していた。経済産業省も、産業振興の観点から外国人患者の受け入れのための調査事業などを実施し、音頭取りをしてきた経緯がある。

 しかし、3月11日の震災以降、来日する外国人患者は激減し、一気に下火になってしまった。

 ところが、冒頭のコメントにあるような日本の医療機関や医師の海外進出という方法の転換で、復活の芽が出てきている。

 つまり、組織的に日本の医師を海外に派遣して最先端の診断や治療を行って、外貨を稼ぐ──という“医師の輸出”であり、現在、経済産業省を中心に事業が進められているのだ。

 具体的には、同省の「医療サービス国際化推進事業」の一環。

 主に中国やロシアなどの高度医療を受けられない外国人患者への医療サービス提供によって、日本の医療産業の発展を図るのを狙いとしたものだ。従来の産業政策のような単なる医療機器や医薬品の輸出にとどまらず、実際に診療拠点を開設して日本の医師による治療や診断などの医療サービスを行うのが特徴だ。

 現在、野村総合研究所が事務局となって、今夏から中国やロシア、カンボジアなどで内視鏡を用いた診断や手術のほか、IT技術を駆使した遠隔画像診断などの6つプロジェクトの実証実験に入っている。各地の有名病院の医師や院長らにも協力要請やヒアリングが行われており、計画では、来年2月末までに報告書がまとめられる予定だ。

 これら報告書を基に、経産省では、より踏み込んだ医療の国際化政策を策定する計画だ。

 もっとも、難民などを相手にした人道的な医師の派遣ならいざ知らず、外国の富裕層を相手に、日本のベテラン医師を派遣することについて、医療界では賛否両論があるのが実情だ。

 賛成論としては「日本の高度医療に光が当たり、日本の医療産業と医師の海外経験が増して技術力向上にもつながる」という意見がある。

 その一方で、日本医師会をはじめ「医師不足や医療崩壊が問題視されるなか、外国の富裕層相手に貴重な医師を派遣することは(おカネを積めば、高度な医療を受けられるという)医療格差に拍車をかける」との批判も根強い。

 医師は日本国民にとっても、貴重な“資産”であり、“インフラ”でもある。それだけに“医師の輸出”となれば、議論は簡単には収束に向かいそうにない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)

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