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誤算続きのスキンカリオール買収
真価問われるキリンの海外戦略

週刊ダイヤモンド編集部
2011年11月11日
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 キリンホールディングスは11月4日、ブラジル2位の酒類メーカー、スキンカリオールの100%子会社化を発表した。

 8月2日に同グループの発行済株式総数の50.45%を取得していたものの、残りの49.54%を保有する少数株主から買収無効の訴訟を起こされていた。今回キリンは、その少数株主の全持ち株を約1050億円で買い取ることで、訴訟を終結させる。

 本来約2000億円だったはずの買収価格が1.5倍の3000億円に跳ね上がり、買収をめぐり現地で裁判沙汰となった今回の統合劇。「ありうるシナリオとして想定はしていた」(小林弘武・キリンホールディングス常務)というが、誤算続きの感は否めない。

 スキンカリオールの連結売上高は、2010年12月期時点で1437億円、総資産は2247億円、連結EBITDA(税引き前利益に減価償却費、支払利息、税金を加えたもの)は256億円である。対してキリンが買収に投じた金額はEBITDAの13倍に達する。5~10倍が相場といわれるなかでは、「高い買い物」になった。

 業界内には、スキンカリオールのそもそもの“価値”に首をかしげる向きも多い。

 同社はブラジルのビール市場で確かに2位だが、シェアはわずか15%で、1位のアンハイザー・ブッシュ・インベブ傘下のアンベブが60%という圧倒的なシェアを握っており、苦戦していた。

 スキンカリオールの買収話を持ちかけられたのは、キリンだけではない。サブ・ミラーやハイネケンなどの大手海外ビールメーカーにも持ち込まれたものの、「買収無効を訴えたいわくつきの創業家の少数株主の問題に加えて、シェアが低下していることを嫌って手を出さなかった」(投資銀行関係者)のだ。

 同様に案件が持ち込まれたアサヒホールディングスでも、「利益があがっていない」(幹部)ことなどを理由に買収には動かなかったという経緯がある。

 利益が低迷しているのは、ここ数年間集中して行ってきた設備投資負担のため、という一過性の要因もある。だが、ひとたびアンベブが圧倒的シェアにモノを言わせて価格攻勢に打って出れば、それに巻き込まれ、想定していた利益水準が確保できなくなる可能性は大きい。

 キリンにとっては市場の反応も誤算だった。買収発表後の8月9日、同社の株価は終値968円と年初来最安値を記録。その後、米格付け会社ムーディーズと格付投資情報センター(R&I)が、財務内容の悪化を理由に長期債を1段階ずつ格下げした。

 現時点でのDEレシオ(負債資本倍率)は1.1倍。中期経営計画では12年12月末時点でDEレシオ0.5倍を目標に掲げているが、実現は厳しくなっている。長期債の格下げにより資金調達の条件が悪くなる可能性が高まり、市場関係者のあいだには「増資による資金調達の可能性もあるのではないか」との見方もある。そうなれば、株式の希薄化によりさらに株価が下落するリスクがある。

 そもそも市場には、キリンがここ数年で約2兆円を投じた海外企業の買収で、確たる成果を上げられていないことへの不信感がある。累計で6600億円あまりを投入したオセアニア事業は、不振の乳業事業をいまだ建て直すことができていない。前期に続き、11年12月期にも再度、のれん代等の減損を迫られるのではないか、という観測が根強い。

 市場の不信感を拭い去るには、失策続きの海外事業で成功事例をつくることが不可欠だ。

 「ブラジル市場は市場規模も大きく、成長基調にあって商品単価も上昇している。スキンカリオールは認知の高いブランドと最新鋭の設備を持ち、ビールのみならず清涼飲料事業を持つ。キリンに会社の構造も似ており、キリンが目指す海外事業における総合飲料戦略に合致する」と小林常務は説明するが、低迷する株価を見る限り、市場で信任を得ているとは言い難い。

 目に見える成果を求める市場の圧力は、日増しに高まっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

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