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米中間の国際カード紛争が激化している。
事の発端は昨年9月。米通商代表部が、電子決済サービス市場への外資参入を妨害しているとして、中国を世界貿易機関(WTO)に提訴。以来、両国政府は、VISAと中国の銀行カード連合組織、中国銀聯の代理戦争を演じている。今では、通常なら数週間で認可される新規デザインのカード発行さえ、「中国はVISAのみを認可しないよう狙い打ちしていると聞く」と国内VISA関係者。
「中国は東洋の国。クレジットカード業界にも『和をもって貴しとなす』の精神が必要だ。利益偏重は成り立たない」──。
先月下旬に開かれたカード国内最大手、ジェーシービー(JCB)の海外パートナー企業が、一堂に会した「JCB世界大会」での一コマ。6月にJCBと協業拡大の覚書を交わした銀聯の蘇寧董事長(会長)は、提携には「互恵の精神が不可欠」と繰り返した。名指しこそ避けたが、蘇董事長の念頭に、和を“乱す”存在として業界の雄、VISAがあることは想像に難くない。
紛争の背景には、中国で発行されるVISAと銀聯の双方とも決済できる「二重ブランドカード」をめぐる手数料の奪い合いがある。
従来、VISAのルールでは、二重ブランドカードを発行国以外の第三国で使用した場合、VISA側で決済処理され、手数料が転がり込んでくる。ところが、近年、海外旅行する中国人が急増、銀聯も世界進出したことで、銀聯側で決済処理されるケースが多発しているという。
「銀聯の本音は『VISAのルールなど知ったことではない』。かたや、VISAは実入りが減るうえ、中国のカード黎明期を支えた恩をあだで返されたという思い」と、別の業界関係者は明かす。
国際カード紛争は、中国にとどまらない。お隣、韓国でも同様だ。VISAは銀聯と逆に国内の手数料をめぐり、韓国カード大手、BCカードに罰金10万ドルを請求。対するBCカードもVISAを独占禁止法違反で提訴している。
この間、その中国や韓国で会員数を急速に伸ばすのが、日本発の国際カードブランド、JCBだ。
今年3月末の海外会員数は、約870万人。それが、今年中には1000万人の大台を超える見込みだ。特に、韓国での伸びは顕著で、昨年1月、同国大手の新韓カードと共同開発したURSカードを発行して以来、それまで100万人程度だった会員数が、わずか2年で350万人へ飛躍した。
じつは、新韓カードは当初、JCBではなくVISAとの提携を模索していたとされる。JCBが逆転した理由、それは新韓カードが「カネを米国に吸い取られる構図」(業界関係者)のVISAルールに嫌気が差すなか、近年、日韓以外の加盟店数を大きく伸ばしたJCBが、韓国内の決済手数料を引き下げたためだ。
「現在、VISA、Masterの2強体制が揺らぎ、リージョナル化が進んでいる」と関係者が口を揃えるなか、日の丸カードが“漁夫の利”となるか注目だ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)