サウジアラビアがキナ臭いことになっているようです。同国政府は11月5日、11名の王子や現職閣僚を含む数十名を「汚職」容疑で一斉逮捕したと発表しました。また関連は不明ながらイエメン国境近くでヘリコプターが墜落し、王子が1人死亡しています。謎のベールに包まれた国、サウジアラビアでいったい何が起こっているのか!? 刺激的な金融メルマガ『闇株新聞プレミアム』が解説します。
新皇太子の権力強化を狙った排除か!?
一夫多妻国家の複雑すぎる王位継承
サウジアラビアで現職閣僚や王子など、有力者数十名が一斉に逮捕されました。シティバンクなどの大株主で世界有数の大富豪、アルワリード王子も含まれているようです。
逮捕を命じたのは「反汚職委員会」の長に就任したムハンマド王子と考えられます。また本件との関連は不明ながら、数名が搭乗したヘリコプターがイエメン国境近くで墜落し、王子が1人死亡しています。逃亡しようとして撃墜された可能性も否定できません。
サウジアラビアの建国は1932年。歴代の国王は初代アブドルアジズ国王(1875-1953)の「36人の息子」から選ばれています。現在のサルマン国王は7代目で、アブドルアジズ国王の「25番目の息子」です。2015年1月に即位するも、健康に問題を抱えています。
そのためでしょうかサルマン国王は7月、甥のムハンマド・ビン・ナイーフ皇太子を「薬物中毒」で罷免し、息子のムハンマド副皇太子を新皇太子に指名して、経済・外交・国防などの権限を集中させています。
ソフトバンクの10兆円ファンドへ大口出資を決めたのも、カタールとの国交断絶を主導したのも、国営石油会社サウジアラムコの株式上場を推進しているのも、このムハンマド新皇太子(当時は副皇太子)です。
ムハンマド皇太子は32歳。このまま国王となれば初の「第三世代国王」(初代国王の孫)で、向こう数十年に渡り権力を掌握することになります。ただし、初代国王の孫は男子だけでも254人も存在するため、この人事が王族全体に受け入れられているわけではなさそうです。
今回の一斉逮捕は、サルマン国王とムハンマド皇太子が「反対派」の機先を制したものと見られます。容疑が「汚職」というのも笑えます。莫大な原油収入の大半は国王はじめ王族が使い込んでいるため、それを汚職とするなら全員が容疑者になってしまいます。
中国で習近平が自らの権力基盤を強化するため他の有力者を排除している「規律違反」にそっくりですが、反対派を完全排除することもまた不可能であり、当面は政治経済の混乱が続くと思われます。
シェール油産出で米国のサウジ離れ進む
イランとの対立も絡み中東の新たな火種に
米国とは第二次世界大戦時にルーズベルト大統領がアブドルアジズ国王に「石油を米国に安定供給する代わりに(サウジアラビアの)体制を守る」と約束してから、同盟国として親密な関係を保ってきました。
ところが2015年、オバマ政権がサウジアラビアの宿敵であるイランと核合意(ゆっくりであれば核開発を認める内容)を締結し、経済制裁を解いてしまいました。また2016年には9.11同時多発テロの遺族がサウジアラビアなど事件に関与した外国政府に損害賠償できる、いわゆる「サウジ法案」を成立させています。
米国は2014年頃からシェールオイルが十分産出できるようになってから、明らかにサウジアラビアを軽視しています。
トランプ政権は最初の外交先としてサウジアラビアを訪問(5月)していますが、1100億ドル(約12兆円)規模の武器輸出に合意した以外、関係をどうしたいのか見えていません。
10月5日、サルマン国王は初めてロシアを訪問し、プーチン大統領との間でエネルギー政策や経済協力について話し合っています。しかし、ロシアはシリアのアサド政権を支持しており、アサドはイランと近い関係にあります。つまり、どう考えてもロシアとサウジアラビアがこれ以上に親しくなるとは思えません。
今回のサウジアラビア王室の混乱は、そうでなくても複雑な中東情勢に「新たな混乱」となるはずです。目が離せない国がまた1つ増えてしまいました。
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