出版不況のなか奮闘著しい『週刊文春』。同編集部を束ねる新谷学編集長は、どういったポリシーに基づいて誌面を作り、また今のメディア全体をどう見ているのか。新谷編集長と田端信太郎・LINE上級執行役員との対談、最終回(前回はこちら)。

『騙し撃ち』はせず、つねに真っ向勝負

田端 非常に印象深いエピソードを聞いたことがあります。とある人物が選挙の候補者として名前が挙がったものの、実はスネに傷を持っていた。そして、週刊文春がそのことを嗅ぎつけていると察知した官邸サイドから編集部に電話が入り、「出馬させたら記事を書くつもりか?」と問い詰めたという話です。「そりゃ、書くに決まっているじゃないですか!」と新谷さんは即答し、その人物は出馬しなかったというオチです。

「いやぁ、ちょっとわからないですよね」とその場はとぼけておいて、実際に出馬表明されてからスクープをぶつけるという手法のほうが編集長としては手柄を得やすいですが、そのような策は打たない新谷さんって、ホントに潔くて爽やかな人だと思いましたね。

新谷 基本的に、私は情に流されやすい人間なのですよ。自分でもそのことを非常に自覚していて、長所として役に立つケースもあれば、逆に短所となって苦境に立たされるケースもあるわけです。

『週刊文春』編集長のメディア論【新谷学×田端信太郎対談】新谷学(しんたに・まなぶ)/1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。

田端 なるほど、どんなに情を感じている相手であっても、書くべきことは書くと心を鬼にして伝えるわけですね。だから、企業の広報セクションなどに対しても偽りを述べることもなく、逃げることもない。

新谷 まぁ、あとは、性格的に思ったことはそのまま口にするってところもありますかね。とにかく私は会社に入って以来、ずっとこのようなキャラですから、変えようがありません。そのせいでムダに敵を作ってしまったり、損をしたりすることも少なくありませんが、面白がって「いっしょに働きたい」と言ってくれる人もいます。

田端 やはり、著書にも書かれていましたが、上層部から「アイツを徹底的に追いかけろ!」とか、何らかの指図を受けて記事にしているわけでもありませんよね。つねにネタありきで、特定の誰かを狙い撃ちしてアラ探しをするというスタンスでもない。

新谷 まさしく、ネタありきですね。政治記事でいえば、与党だろうが、野党だろうが、そこに山があるから登るという感覚。私は現場の取材力を高く評価していますが、それをある意図を持って特定の人物、組織を攻撃するために使ったら、それこそ大変危険だと思います。

田端 だから、私怨なんてものが介在せず、とにかく面白い話なら書く!