筆頭株主トヨタ自動車との協業深化を突破口に、11年3月期決算で過去最高益を達成、鮮やかな復活を遂げた富士重工業。今後さらなる「トヨタ化」が進み、スバルブランドの独自性が失われることはないのか。吉永泰之社長に聞いた。
(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

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「トヨタにはならないでください」。トヨタ自動車と資本提携を締結した当時、豊田章一郎名誉会長や渡辺捷昭社長(現相談役)ら上層部から、そう言われたことを鮮明に覚えている。どうやらトヨタ経営陣は、「日本でクルマが売れなくなったのは、リーディングカンパニーであるトヨタが、魅力あるクルマを提供できなかったことに責任がある」と感じていたようだ。だから、あえてスバルがトヨタ化することを否定し、スバルの個性を失ってはいけないと助言してくれたのだろう。

 実際に、トヨタはスバルの魅力を認めてくれている。たとえば、スバル車の強みである「水平対向エンジン」を搭載した共同開発車を作ろうと、言ってくれた。かつて、提携関係にあった日産自動車からも、米ゼネラル・モーターズ(GM)からも、そのような提案がなされたことは一度もなかった。水平対向エンジンは高コストなので、経済合理性を重んじる大手自動車メーカーでは規格が採用されないからだ。こうしたトヨタの姿勢に対して、経済合理性一辺倒ではない深い判断力、深い洞察力をお持ちなのだと敬意を払っている。トヨタから学ぶべきところは学ぶが、スバルの個性がなくなれば競争優位性まで失う。