近年、コンテナ船は大型化が進み、10年前に比べて2倍の大きさが主流になっている。加えて、欧州海運会社による大量供給が続いており、運賃の値崩れに拍車をかけている

 海運業界に、再び市況悪化の波が押し寄せている。昨年はリーマンショックから回復の兆しが見えひと息ついていたが、今期(2012年3月期)は、海運大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)が揃って最終赤字に転落する。3社合計で540億円もの赤字になる見通しだ(前期は1673億円の黒字)。

 燃料価格の高騰や円高などが重なって業績を悪化させているが、大きな要因は、主力事業の一つであるコンテナ船・アジア~欧州航路での運賃暴落である。船が供給過剰になっているため、足元の運賃は前年より3割も落ち込んでいるのだ。

 リーマンショック前の07年、海運業界は好況にわいた。その頃に大量発注したコンテナ船が今になって続々と完成しており、船のスペースがダブつき、価格下落に拍車をかけている。このため、「今期は世界の全海運会社がコンテナ船事業では赤字」(海運関係者)と見られている。

 ただならないのが、この供給過剰状態が当面続きそうなことだ。

 09~10年は各社発注を絞ったが、11年に入ってから再び発注が旺盛になっている。11年は8月末時点ですでに10年1年間の2倍に当たるコンテナ船が発注された。

 なおも大量発注を続けているのが、世界のコンテナ船市場で16%のシェアを持つ業界トップのマースク(デンマーク)で、既存船腹に対して23%もの発注残を抱えている。このマースクの動きに、MSC(イタリア、籍はスイス)、CSCL(中国)などが追随している結果、今後も供給過剰は解消されそうにない。

 今もってマースクが大量発注している理由について、大手海運会社の幹部はこう解説する。

 一つは、「市況が悪化しているときは、船価も安い」ことだ。船価はピーク時より4割安くなっており、仕入れ時でもある。加えて、新しい船は燃費がよく、コスト競争力につなげることができる。

 そしてもう一つの理由は、「自らがメインプレーヤーとなり、業界再編を狙っているのではないか」というものだ。

 もともと海運事業の中でもコンテナ船は差別化がしにくく、価格競争に陥りやすい。コンテナ船事業からの脱落者が出れば、自社の占有率が上がり、そうなると一転して価格支配権を握れるようになる。それまでの間、市場に揺さぶりをかけ続け、我慢比べに突入しているのではないかというのだ。

 世界のビッグプレーヤーが仕掛けてきた価格競争に、日本の海運3社はあおりを食っている状態だ。

 09年の市況悪化時は、海運会社は自らが供給を絞ることで需給を調整した。今回は、泥沼の価格競争で体力勝負を強いられることになるのか。マースクの動向が大きなカギを握っている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)

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