ビジネスで勝ちつづけるには、自らが有利になるよう場やルールを操る必要がある、とマクアダムス教授は言う

「賢者は戦う前に勝つ。愚者は戦って勝とうとする」
三国志に登場する偉大な軍師、諸葛亮には数々の名言があるが、ビジネスパーソンにとってこの言葉ほど含蓄に富むものはないのではないだろうか。なぜなら、ビジネスという勝負の場で勝ちつづける企業は、勝負が始まる前に勝負を決めていることが多いからだ。
では、どのようにして、「戦う前に勝つ」を実現すればいいのか。ハーバード、スタンフォードで研鑽を積み、MIT、デューク大学MBAで超人気となったデビッド・マクアダムス教授は、「ゲーム理論」こそ、諸葛亮の知恵をビジネスの場で実現するのに役立つという。新刊『世界の一流企業は「ゲーム理論」で決めている』より、ゲーム理論がビジネスに効く理由を3つ、ご紹介しよう。

戦う前に勝つためのサイエンス

「賢者は戦う前に勝つ」

 そう記したのは、中国・三国時代の偉大な政治家にして軍師、さらには学者でもあった諸葛亮だ。陳腐な決まり文句のように聞こえるかもしれないが、きわめて本質的な真理を突いた言葉である。賢者は、展開しうるあらゆるゲームを把握し、みずからの有利となるように戦略的環境を操り、そのうえで最終的な勝利を確信して戦いに臨む。愚者はそれとは対照的に、目の前のゲームにただ突っ込んでいく。勝敗は自分のコントロール下になく、ツキと運によって決まってしまう。

 諸葛亮が示した知恵を、私は「ゲーム認識力」と呼びたい。しっかりと開いた目で、周囲にどんな戦略が作用しているのか見ようとする能力のことである。自分が何に参戦しているか知らずにいるのは危険だ。ゲーム認識力はそうした危険の多くから身を守る術になる。それどころか、人生のゲームに対して真に目を開いていられるならば、戦略的に有利となるよう、策を講じてゲームチェンジを仕掛けることも可能になる。だからこそ本書では読者のゲーム認識力育成を目指すと同時に、ゲームチェンジの「アート(技術)」習得へつなげていきたい。ゲームそのものを変える腕があれば、自分以外の人には見えない戦略的機会を認識し、確保し、絶大な競争優位を手にしていくことができるのだ

「サイエンス」、すなわち体系的な理論としてのゲーム理論は、かつては応用数学の中のかなり目立たない一分野にすぎなかった。しかしここ40年ほどのあいだで大きく台頭し、いまや社会科学における重要な進歩の数々を後押ししている。学問の世界でも、経済、政治科学、ビジネス戦略といった多彩な分野で、ゲーム理論が主軸的な役割を果たすものとして教えられている。その他にも、法律、企業財務、管理会計、社会貢献事業、さらには生物学や疫学に至るまで、さまざまな領域にかかわっている。

 ゲーム理論など一度も聞いたことがないという読者でも、ゲーム理論が用いる用語や概念には、常日頃から接しているはずだ。アメリカ軍の計画的撤退は、アフガニスタンのタリバン勢力に対し、どんな「信号(シグナル)」を送ったのか。ギリシャの債務不履行は「伝染」して他国の金融危機へつながっていくのか。アメリカの移動通信事業者スプリントが早期に行った4G WiMAXテクノロジーへの投資は、スプリントに「先行者優位」をもたらしたのか。近年のニュースには、ゲーム理論で検討される問いがつねに含まれているのだ