30センチを超える英文書類を読み込む毎日

「もともと留学の志が高くはなかったんです。なんとか2年間で卒業できればいい。それで日本に帰れる、と」

 ところが、思いがけない辞令が待ち構えていた。ニューヨーク勤務である。日本の銀行の国際化が本格化し、中南米や公社向けのシンジケートローンに大規模に参加するようになっていた時代。しかも当時は、中南米の経済危機が起きて、あちこちでトラブルが起き始めていた。

「今度は仕事で英語を使わないといけなくなってしまった。アメリカ人の部下もつきました。後にはラテンアメリカの国々の交渉担当になり、回収係になった。ローン契約書に加え、付随契約書、資料など時には30センチを超える厚さになる書類を全部、読み込まないといけない日々でした」

 さらに英語で交渉をするのだ。この後は、アメリカの地方公共団体、州政府や郡・市などが出す債券の保証業務を行う部署で、案件交渉から契約書づくりまですべてを一人で担当することになった。条件交渉で銀行から来ているのは、外池氏一人。他にはアメリカ人弁護士が同席しているのみ。日本人ひとりぼっちで、朝から晩まで英語漬けの日々となったのだ。

 こうした逆境の中で培った英語に対する捉え方は、英語を学ぼうとしている人に大きな勇気を与えてくれる。

「ハワイから数年後の話ですから、長足の進歩でした。実地でやらざるを得ない状況に置かれたら、できるようになるんだと私は思います。時間をかければ、できないことはない。窮すれば通ず、ということです。実は英語というのは、キーワードだけ耳に入れば、わかることのほうが多いんですよ。全部を聞こうとするから、無理が出てきてしまうんですね」

 日本語でも実はそうである。一字一句、すべて聞いている人はいない。無意識に重要なところを拾っているのだ。

「英語だと、そのパーセンテージは落ちますが、単語ベースで行くと、半分わかれば完璧に近いレベルで理解できると思います。3割くらいわかれば、だいたいの意味は取れる。頭の中で翻訳していると、理解が絶対に追いつかなくなります。英語で理解して、英語でしゃべる。モードを切り替えることができるようになっていったんです」