「2言語翻訳」ではなく、「2つの脳の切り替え」

一方、SLAの理論が考える語学習得のプロセスは、母語の脳とは別に「もう一つの脳回路」を最初からつくることを目指している、と説明するとわかりやすいと思います。PCの知識がそれなりにある人には、「ハードディスク内に別の仮想ドライブを構築するようなもの」と言ったほうがイメージしやすいかもしれません。

その場合、「dog」という単語は、「犬」を表す英単語として日本語脳のなかに格納されるのではなく、別の脳回路に「dog」のまま収納されます。そこに結びつけられるのは、「dog」という音や、かわいらしい四肢動物の映像イメージ、これに付随する別の英単語です。

そして、英語を使いこなせる人は、頭の活動を英語脳に“切り替えて”います。「英語の頭」のまま英語を聞き、「英語の頭」のまま考えて、「英語の頭」のまま発話をしています。日本語脳の引き出しを開けて、いちいち翻訳をしたりはしていません。
英語脳だけですべてが完結しており、「翻訳」のプロセスがないので、母語と同程度のすばやいレスポンスが可能なのです。