タダでもいいから、働かせてください!

 窮地というのは、いわば普通のアタマで考えていては解決できない状況。合理的、理論的に考えても出口が見つからない状況なのです。それを脱出するときには「そんなのアリ?」って思うくらい、自分の発想の枠を越えなくてはいけません。

 たとえば最近、働きたくても仕事がないと悩んでいる人が多いと聞きますが、本当にそうなのでしょうか?

 私の友人のAさんは、どうしても本の編集の仕事がしたかったのですが、出版社の編集者というのは定期採用も少なく、たとえ募集があったとしても希望者が殺到して、真正面からぶつかるのは極めて難しい職種です。

 そこでAさんは、自分の好きな作家さんの本をよく出している出版社が出展する展示会に出向き、その作家の担当編集者さんをなんとか探しあてました。そして『タダでもいいから、働かせてください!』と詰め寄り、自分の熱意を猛アピールしたのです。

 その編集者はとうとう根負けして、とりあえず最初はアルバイトのような形で彼女に働いてもらうことにしたそうです。彼女にしてみれば、心底やりたかった仕事なのですから、それはもう楽しくて仕方がない。人一倍働く姿が会社にも認められ、やがて契約社員になることができました。

 こうした方法を「ずるい」と思う人がいるかもしれませんが、仕事にありつくルートは実はいくらでもあるのです。愚直なようですが、自分の熱意を真正面からぶつけるという、普通の人がやらないような行動をとったことで、彼女は窮地を脱出したのです。

 次に紹介するのは、私自身が陥った窮地の例です。

 あるとき、都内の大学の文化祭で講演をすることになっていました。会場に向かう電車の中ではいつもそうですが、数時間後に始まる本番のことで頭がいっぱい。「ここで、どう言おうか」「このスライドはなくてもいいかな」と最後の推敲をしながら、中央線に乗り替えようとしたとき……。