イラクの復興に、日本の総合商社がビジネスチャンスを狙っている。

 イラクは、1980年代以降の3度にわたる戦争と、10年以上に及ぶ経済制裁で、これまで外資企業が本格的なビジネスに入ることはほとんどなかった。

 だが、イラクは、サウジアラビア、イランに次いで世界第3位の原油埋蔵量(およそ1150億バレル)を誇る資源大国だ。復興へ向かう今、商社がビジネスをしない手はない。

 11月後半、4年ぶりとなるマリキ首相の来日にあわせ、三菱商事は英蘭石油大手のロイヤル・ダッチ・シェル社とイラク石油省傘下のサウス・ガス・カンパニーとのあいだで、イラクでの合弁事業契約に最終合意した。天然ガスを回収し、有効利用するこのプロジェクトの契約額は、じつに170億ドル(約1兆3300億円)。超大型プロジェクトとなる。

 ほかの大手商社幹部も、マリキ首相と極秘で会談するなど、イラクとの関係強化に余念がなかった。

 加えて、日本政府はイラクへの670億円の円借款供与を表明した。経済成長が軌道に乗れば、インフラや建設機械、自動車関連など、商社が得意とする分野の商売も広がる。

 ところが、そう簡単に事は進みそうにない。

 豊田通商は、来年4月にバグダッド市内に駐在員事務所を設立することを表明した。その背景には、自動車販売事業などで急激に幅を利かせ始めた韓国勢などへの強い危機感がある。2003年のイラク戦争終結以降、過去3回行われたエネルギー事業の入札でも、日系商社は韓国勢などに敗れている。

 近年は、海外からイラクへの直接投資額はうなぎ上りで、トルコやイタリアの投資額も大きい。

 「欧州勢や韓国勢などは、早くから駐在員が現地に入り込み、着々とビジネスの土壌となる地の利をつけていた」(入川史郎・豊田通商中近東自動車部部長)ことが有利に働いた格好だ。「相手が現地でノックできる場所があるかないかで信頼度が大きく変わってくる」と松下剛・豊田通商執行役員は力を込める。

 これに対して日系商社は前述の豊田通商、空港に事務所を置く住友商事以外は、駐在員事務所の開設を未定としているところが多い。

 常設を決めた豊田通商も、「日本人駐在員を置くかどうかは、現在検討中」(豊田通商)なのが現状だ。

 イラクへの本気度が試される駐在員事務所の開設だが、最大のネックとなっているのは安全面の不安だ。外務省の危険情報では、「退避を勧告する」とされており、「なかなか一企業として駐在員を送るという決断をするのは難しい」(大手商社幹部)のだ。

 社員としても「海外駐在に行くならイラクでなくても……」というのがホンネ。  

 有望市場のイラクだが、“本格進出の証”となる、商社の駐在員事務所の設置には、当面時間がかかる見通しだ。日本人駐在員が送られるのは、さらに先で、現地で勢いを増す海外勢との差はさらに開きそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 脇田まや)

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