14センチもの亀裂を見逃したまま運転し、大惨事の危険すらあった「のぞみ」の重大インシデント。なぜ安全が軽視されてしまったのか。その元凶は、新幹線が世界に誇る「定時運行」にあるのではないだろうか。(ノンフィクションライター 窪田順生)

世界に誇る新幹線のはずが…
意外と安全確認は適当だった!?

のぞみ重大インシデントの元凶は「世界に誇る定時運行」だ「運行技術やダイヤの正確さは世界一」――多くの日本人がそう誇り、その期待に応え続けてきた新幹線。しかし、その「定時運行」への過度なこだわりこそが、今回の重大インシデントの元凶となったのではないだろうか

「脱線などに至ったかもしれない」――。19日、JR西日本本社で吉江則彦副社長が口にした言葉は衝撃だった。

 小倉発、東京行きの新幹線「のぞみ34号」の台車に14センチの亀裂が入っていた「重大インシデント」。JR西日本は、あと3センチ亀裂が進んでいれば完全に車両は破断していたと明かしたのである。

「のぞみ」の最高速度は300キロ。このスピードでの「脱線」が、どれほどの惨劇を招くのか、想像しただけでも身震いしてしまう。ただ、恐ろしいのはそれだけではない。

「のぞみ34号」に乗車していた現場責任者らは、かなり早い段階から「異変」を把握していた。にもかかわらず、3時間も走り続け、そのまま「異常なし」とJR東海に引き継ぎされていたのだ。

 まず、小倉駅を発車した時点で、「パーサーおよび客室乗務員より『焦げたようなにおいがする』との申告」があったと、当初から「異変」を確認している。次に、福山から岡山の間を走行している際には、後に亀裂が見つかった13号車車内の乗客から「車内にモヤがかかっている」という申告があった。

 そこで、岡山駅で車両保守点検担当社員が添乗して確認したところ、「うなり音」を確認した。保守点検担当者は、停車駅での点検をすべきだと提案をしたが、東京にある新幹線総合指令所は「走行に支障するような音ではない」として、そのまま走り続けて名古屋でようやく発覚したというわけだ。

「日本の技術力と勤勉さの象徴」なんて言われ、なにかにつけて「世界一」を謳う新幹線が、実は意外と軽いノリで安全確認がなされていた、という驚愕の事実もさることながら、一般利用者からすれば、「こんな調子なら他の新幹線でも同じことが起きるんじゃないの?」という不安が、当然頭をよぎる。