新興企業の成功要因を、組織における「ビジネススキルと技術的スキルの構成」から測定する、ドイツのユニークな研究事例を紹介。イノベーションを目指す企業の創業者にはなぜ、ビジネス力よりも技術力のほうが必須なのか。


「スタートアップ企業が成功するか否かは、最初の社員10人によって決まる。それぞれが会社の10%を担うことになる。ならば、全員をAクラス人材で揃えるために、人探しに必要なだけ時間をかけるべきだろう。小さい会社は大企業に比べて、優秀な人材に頼るところがはるかに大きい」――スティーブ・ジョブズ

 新しい企業の黎明期には、望ましい人材の発掘、採用維持は最も重要な課題であり、最も困難でもある。ジョブズの発言を言い換えるなら、新規ベンチャー企業にとって最初の社員たちは、創業者や創業メンバーと同じくらい、会社の将来の成功を左右する重要な存在なのだ。

 では、どのような採用活動をすれば、スタートアップの成功を確かなものにできるのだろうか。

 イノベーティブな新興企業は経済成長を牽引する、という研究結果はあるものの、その従業員に関しては実態があまり知られていない。若い企業が成功するために、有能な社員が重要であることは明白だ。しかし、彼らが具体的にどうスタートアップの成功に寄与するのかは、さほどわかっていないのだ。

 私はベッティーナ・ミュラーとの共著論文で、新規ベンチャー企業におけるイノベーションの成功と、人的資本との関係をもっと明らかにしようと試みた。若い企業が「新規性のある商品・サービスを市場に投入できる可能性」と、「社員のスキル」はどう関係するのか、その関係性は創業者のスキルによってどう異なるのかを分析した。

 我々が注目したのは、新規企業のイノベーションの成功に最も不可欠だと言われる2つの能力、すなわち「ビジネスのスキル」と「技術的スキル」である。技術的スキルは通常、新たなビジネスアイデアを実行する際に必要とされるものだ。かたやビジネススキルは、市場リサーチの実施、有望なニッチ市場の発掘、あるいは研究開発段階の資金調達で必要とされる。

 主に注目したのは、どのような条件下で、これら2つのスキルが補完性を持つのか、つまり片方のスキルが活用されたときに、もう片方のスキルによる利益が高くなるかという点だ。換言すると、技術的スキルとビジネススキルが補完関係にあるならば、企業はそれら両方を備えることで、格段に大きな利益を得られる可能性がある、ということである。

 我々は、ドイツのスタートアップ企業群に関する包括的なデータセットに基づいて、実証分析を行った。このデータは、KfW/ZEWスタートアップ・パネルが提供する企業情報と、その全従業員に関する公式登録データをリンクさせたものである。

 2008年に開設されたKfW/ZEWスタートアップ・パネル(ドイツ復興金融公庫と欧州経済研究センターの共催)によるデータは、ドイツのスタートアップに関する代表的な調査報告である。これにリンクした従業員登録データはドイツ連邦雇用局のもので、雇用企業に義務づけられた社会保険機関への届け出に基づいている。

 我々は雇用局が提供するリストから、創業者と社員の学歴および前職に関する情報をコーディングして、技術的スキルとビジネススキルを測定した。

 企業の諸活動間の補完関係をテストするために、開発された手法というものがある。これを用いて、創業者・社員が有するビジネススキルと技術的スキルの兼ね合いによって、スタートアップのイノベーションの成果に差が出るかどうかを探った。

 起業家は「市場にイノベーションをもたらそうという意思の有無」によって、共同経営者や従業員の人選が違ってくる可能性が非常に高い。今回の多変量モデルでは、このことに焦点を当て、企業の特性とイノベーション戦略に関しては調整を施した。