チャート作成用のツールは誰でも簡単に扱えるものだが、チャートの読み方や記述方法に慣れるまでには、ある程度の時間を要する。普段の業務に加えてHIT法での活動を行うことになった現場からは、反発する声もあったという。

 しかし、HIT法による活動を進めていくに連れ、その声もだんだん聞かれなくなり、逆に活動が熱を帯びていくようになる。業務が目に見えるようになり、具体的な改善ができるようになってきたからだ。

 Sチャートでは何種類かの記号と線を使って業務プロセスが表現されるが、その中でも、赤い線と二重丸で表された「転記」や、ひし形の「検査」は、明らかなムダを表している。それらのムダな業務を、「廃止」したり「発生時点処理(情報が発生した時点で最終成果物を完成させる)」に変更することが、ムダとりにつながる。

 八千代工業の各部署で作られたチャートには、大量の「転記」や「検査」が見られた。自分たちの業務にムダが多いこと、そしてそれらは改善できることが、チャートによって白日の下にさらされたことで、現場担当者は本気にならざるを得なくなった。

 現場担当者だけでなくマネジャーも同じだ。チャートという根拠に基づいた改善提案書が部下から次々と上がってくるわけだから、迅速に決裁せざるを得ない。自分が出した改善提案が次々と採用されたことで、現場担当者のモチベーションも上がっていった。マネジャーのリーダーシップと現場のやる気の好循環ができたことで、改善活動は次第に盛り上がっていった。

誰も疑問に思っていなかった「紙」の業務

 例えばこんなムダとりが行われた。八千代工業では労働組合を通して加入している生命保険会社から、保険料に関する書類を毎月紙で受け取っていた。そして、受け取ったその情報をExcelに手入力し、そこから給与システムに取り込むという「転記」が行われてきた。これは明らかなムダだ。

「なぜ電子データではなく紙で送ってくるのか、生命保険会社に問い合わせたところ、“以前、紙で送るように言われたので”との回答が返ってきました。おそらく、だいぶ前に紙で受け取る方法でスタートして、それ以来、変わっていなかったのだと思います。恥ずかしい話ですが、そんなことがたくさんありました。転記や確認のムダを極力排除することで、紙の使用量を大幅に削減できました」(斎藤室長)

 会議のムダも改善された。以前は一部の会議では、会議の内容をボイスレコーダーに録音し、担当者が会議終了後に議事録を作り、その内容を出席者に確認・修正してもらって、ようやく最終的な議事録が出来上がった。今では多くの会議でプロジェクタとノートPCを活用し、会議を進めながらその場で議事録を作成する方法を実践し始めている。