「ゾーン」が科学的に解明されつつある

 そんな中、近年では脳波の周波数領域、つまり、覚醒レベルからゾーンを科学的に解明しようとするアプローチがされるようになってきました。

 ゾーンを体験したアスリートのインタビューからは、いくつかの共通項が見られます。

 ・精神的にリラックスしている
 ・肉体的にリラックスしている
 ・現在に集中している感覚

 特に心理面に関するものをピックアップしてみましたが、心身共にリラックスしつつも、集中できている状態であることは間違いないようです。これは、スポーツ心理学の分野で提唱されている逆U字モデルでいえば、頂点付近の精神状態ということになります。また、この覚醒レベルのことを中覚醒状態といいます。

脳を「中覚醒状態」にすると仕事のパフォーマンスが上がる

 中覚醒状態をリラックスと集中のバランスが取れた覚醒領域、「面」に例えるなら、ゾーンは「点」であり、より際だったピンポイントの精神状態といえます。

 このピンポイントを目指すのは、満塁ホームランを目指すことであり、あまり現実的とはいえません。

 「最強のメンタル」が目指しているのは、中覚醒状態です。中覚醒状態を目指し、運良くゾーンに入れれば、しめたものという戦略の方がよほど現実的だからです。

 ゾーンが満塁ホームランであるならば、「最強のメンタル」は量産型のヒットなのです。

 上司を野球の監督に例えるなら、監督側からすれば、たまにどでかいホームランを打ってくれる選手より、コンスタントにヒットを打ち続けてくれる選手の方を重宝することでしょう。

 それは、その人に仕事を任せた場合、ある程度結果が予測でき、上司の不安が軽減されるからです。

 上司も人の子、不安を抱えているのです。人にとって最もストレスなのは見通しが立たない状況の中にいることなのです。

 逆に、いかに壮大なプロジェクトでも、計画達成の見通しさえつけば一気にストレスは軽減していきます。

 メジャーリーガーのイチロー選手の有名な言葉に、「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただ1つの道だと思っています」というものがあります。

 この言葉には、誰しもが共感するところでしょう。イチロー選手は、来る日も来る日も毎日決まったやり方で激しい練習に取り組んでいます。このような生き方ができれば、どの分野でもかなりのレベルにまで到達することが可能です。

 しかし、多くの人たちはイチロー選手を羨望の眼差しで見るだけで、自分には到底できないと感じてしまうようです。それだけ、なにかをなし遂げるということは困難なことだと認識しているのだと思います。

 しかし、イチロー選手には、小さなことの積み重ねの先に、成長した自分の姿がきっとリアルにイメージできているのだと思います。