英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今年もよろしくお願いします。2012年1本目の話題は、英米の日本通たちによる「『日本衰退論は作り話』という話は作り話か? 日本は反面教師ではないのか?」という議論についてです。日本は本当に言われているほどひどく衰退しているのか、本当に日本はひどく息苦しく住みにくい国なのか、という議論です。「日本」と一口に言っても色々な環境や状況があるので、たとえ日本に住む日本人だろうと、単純な結論が出せる議論ではないと思いますが。(gooニュース 加藤祐子)

神話というか作り話か

 年末年始にかけて3週にわたりお休みをいただきました。その間、英語メディアで話題になっていたJAPANというと、オリンパスのウッドフォード元社長が委任状争奪戦を諦めたこととか、野田内閣改造とかでした。もっともこのところの英語ニュースでのもっぱらの話題といえば、アメリカの大統領選や欧州の経済危機、シリア、イラン、北朝鮮などで、日本が大きな話題になっていたとは言えません。ここで取り上げる「日本衰退は神話か」の議論は、欧米の経済危機報道から派生したものです。「ところでもう何十年も停滞しているといわれる日本はどうか?」と比較検討の対象を日本に求めているわけです。ここ数年、何かというと「日本みたいになるな」と反面教師の材料として日本を取り上げてきたのが、欧米経済の後退はいよいよ必至かという今になって「ところで日本はどうなのよ」と(一部の人が)考え直すようになった様子です。

 そこに、かねてから「日本衰退論は作り話だ」と主張していた日本通の経済ジャーナリストが1月8日付の米紙『ニューヨーク・タイムズ』に「The Myth of Japan’s Failure(日本失敗という作り話)」という題で寄稿。それに対して「その通り」という賛成と、「いや、作り話だという言い分自体が作り話だ」という反論が(一部で)盛り上がったという次第です。

 (ちなみに、「myth」を「神話」と単純に訳すと「神様の話」ぽいニュアンスになってしまい、この場合は正確ではないです。こういう場合に使われる「myth」とは、「本当だと思われているが実は本当ではないこと」くらいの意味です。あるいは「作り話」など。神様は関係ありません)

 寄稿したのは、エイモン・フィングルトン氏。英紙『フィナンシャル・タイムズ』や米誌『フォーブス』の元編集者で、日本に詳しいアイルランド出身の経済記者です。

 いわく、経済停滞が進行中のアメリカでアメリカ人は「進むべき道を間違うと日本みたいになってしまうと繰り返し警告されている」、「たとえばCNNのアナリストは日本が『失意の国で後退している国だ』と話していた」と。しかしそれは違う、日本を経済停滞の反面教師として取り上げるのは「作り話 (myth) だ」というのが、フィングルトン氏の主張です。

「色々な指標で計れば、1990年1月の株価暴落で始まったいわゆる失われた数十年といわれる期間に日本経済はとても好調だった。重要な指標を見るなら、日本はアメリカよりずっと好成績を残している。株価急落にもかかわらず日本は国民の生活レベルを向上させてきた。いずれ時間がたてば、この時代は大成功した時代だったと評される可能性は大きい」と。

 そしてフィングルトン氏は欧米メディアの経済記事が日本を笑い者にするのは間違っているとして、いくつかの指標を挙げます。たとえば1989年から2009年にかけて日本の平均寿命が4.2年伸びたこと。これは医療が優れているからだと。そして日本はインターネットのインフラを見事に向上させたと。90年代には整備が遅れていると馬鹿にされていたが、最近では世界最速のインターネット網を備えた世界トップ50都市の内38都市が日本だという調査結果もあると。加えて1989年に比べて日本円は対ドルで87%、対ポンドで94%も価値を挙げているし、失業率4.2%はアメリカの約半分だし、1989年以降のアメリカが経常赤字を4倍以上に増やしているのに対して同時期の日本の経常黒字は3倍に増えていると。

 フィングルトン氏はさらに、複数の日本ウオッチャーによる指摘を例示し、「アメリカ人が日本に降り立った瞬間、『失われた数十年』など作り事だったと気づく」、「日本の空港はここ数年で拡張され、最先端のものに改良されているからだ」と。加えて「日本人はアメリカ人より身なりがきちんとしているし、ポルシェやアウディやベンツなど高級車の最新型に乗っている。日本ほどペットが甘やかされている国は見たことがないし、国のインフラは常に改良され進化し続けている」と。

 ピカピカの外国車やブランドものの服を着たワンコをやたら見かけるのは、たとえば東京でも一部の地域限定ではないか……と、私はここで思いました。またフィングルトン氏の書く「日本政治の失策の結果とされている日本の人口減は、かつて食糧不足に苦しんできた日本人の、国民的選択によるものだ」という部分にも、つい首をかしげました。その一方で、欧米で時に言われるほど日本はひどい状態だろうかと首をかしげてきた私は、「日本は決してダメではない」という同氏の主張に、そうだよなあと何度かうなずいたわけです。

「日本は衰退などしていない」というのはフィングルトン氏のかねてからの持論で、たとえば2005年4月にも「日は昇り続けている」と題して、「史上最大の経常黒字を発表したアジアの国は日本だ。アメリカ経済にとって最も大事なアジアの国は、依然として中国ではなく日本だ。個人所得のレベルで比べても、アメリカが指標とするべきは中国ではなく日本だ」と書いていました。それから7年たって、中国の存在感はますます高まっているわけですが、それでもフィングルトン氏は「日本は衰退などしていない」と主張を重ねているわけです。

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