ジャパネット創業者・高田明がJリーグ経営で放つ強烈な存在感「監督や選手たちへ余計なプレッシャーをかけてはいけない」との思いからJ1元年の目標は封印 Photo By Naoto Fujie


産声をあげてから25周年を迎える2018シーズンのJリーグで、注目すべきチームのひとつが創設14年目にして初めてJ1に挑んでいるV・ファーレン長崎となるだろう。ちょうど1年前は経営危機が表面化し、存続危機に直面していたチームは、経営陣を刷新。急遽、代表取締役社長に就任したのは通信販売大手ジャパネットたかたの創業者で、自身がMCを務めたテレビショッピング番組を介して、お茶の間でも全国区の人気を博した高田明氏(69)だ。その高田氏のリーダーシップのもとでV・ファーレン長崎は鮮やかにV字回復。生まれ育った長崎県を心から愛し、県民に元気を与えたいと未来を見据える高田社長は、笑顔を絶やさない立ち居振る舞いと的を射た発信力から、裸一貫で飛び込んだサッカー界の中ですでに強烈な存在感を放っている。(ノンフィクションライター 藤江直人)

「一戦一生」

 クラブが産声を上げてから14年目にして、初めて臨む国内リーグの最高峰、J1の開幕がいよいよ近づいていた時期。胸の鼓動が高鳴るのを感じながら、V・ファーレン長崎の高田明代表取締役社長は自ら考え出した造語を、クラブに関わる全員へ向けて発するようになった。

「最近になって僕が言っているのは『一戦一生』です。一日一生という言葉がありますよね。例え人生100年でも、一日を一生だと思って頑張ろうと。サッカーも『一戦一生』だと考えていけば、気持ちを切り替えていける。一戦ごとに勝っていけばいい、と。

 一足飛びに夢へは近づけません。先のことよりも一戦一戦を、その時その時を一生懸命に頑張っていくことの積み上げで結果が出ると、僕はいつも思ってきました。ゼイワンに行っても、ゼイツーのときと同じように頑張っていけば、おのずと結果もついてくるのではと信じています」

 先月24日、高田氏は神奈川県平塚市のShonan BMWスタジアム平塚にいた。ともにJ1昇格を果たした湘南ベルマーレのホームに乗り込んだシーズン開幕戦。16時のキックオフを前にして、昨シーズンから続けているルーティーンとして、フェンスに沿ってゆっくりとスタジアム内を歩いた。

 クラブカラーでもある、青とオレンジを基調としたユニフォーム姿のファンやサポーターを見かけるたびに、笑顔を浮かべながら手を振った。ゴール裏だけでなく、メインスタンドでもバックスタンドでも声援を浴びた。長崎から遠く離れた湘南の地で、心を震わせずにはいられなかった。

「どこまで(ファンやサポーターの方が)いるのだろうと思いましたら、けっこう幅広いところまで、かなりの方が応援に来てくれたんじゃないかと思います。びっくりしました。これがゼイワンの力なんですよね。このスタジアムにはゼイツーを戦った去年も来ていますけど、もう全然意識が違いますよ。我々は一番高いところ、ゼイワンで戦っているんだ、という意識ですよね」

 ここまででお気づきになったかもしれないが、長崎県平戸市で生まれ育った高田社長は肥筑方言の訛りが強い影響で、どう頑張っても「J」を「ゼイ」と発音してしまう。今現在ではすっかり市民権を得た“高田節”が、J1における記念すべき第一歩を踏み出した敵地でも繰り出された。

 人生を振り返ってみれば、プロサッカークラブの経営に携わることになるとは、昨年の今頃は考えてもいなかったはずだ。しかし、ちょうど1年前のV・ファーレンは運営会社の資金繰りが悪化し、監督や選手たちへの給与が未払いになりかねない状況に直面していた。