認知症のスタッフを起用「注文をまちがえる料理店」が生む笑顔写真はイメージです

要約者レビュー

「注文をまちがえる料理店」は、特別なルールのあるレストランだ。

認知症のスタッフを起用「注文をまちがえる料理店」が生む笑顔『注文をまちがえる料理店』
小国士朗、 239ページ、あさ出版、1400円(税別)

「このお店では、注文した料理がきちんと届くかは誰にもわかりません」と、料理店を企画した著者は述べる。この料理店で注文を取るスタッフが、認知症の状態にあるためだ。しかしそこには、「間違えることを受け入れて、むしろ楽しみましょう」という思いがある。

 この料理店がそのまま、認知症のさまざまな問題を解決する糸口になるわけではない。それでも「間違えることを受け入れて楽しむ」という価値観を発信したい気持ちが、このプロジェクトを実現させたのだ。

 宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』をモチーフにした「注文をまちがえる料理店」は、2017年6月3日、4日の2日間限定で、試験的にプレオープンした。ほとんど身内だけでひっそりと行なう予定だったプロジェクトは、しかし著者の予想をはるかに超える反響を呼んだ。ハプニングは当たり前のように起きたが、訪れた客はみんなそのハプニングを楽しんだ。評判は国境を越え、社会福祉先進国のノルウェーからも高い評価を受けたという。

 本書『注文をまちがえる料理店』には企画者である著者の視点だけでなく、スタッフとして働いた認知症の当事者を支えている、ケアワーカーや家族からの寄稿も数多く寄せられている。社会福祉の領域に、新しい価値観と示唆を与える一冊である。(池田明季哉)

本書の要点

(1) 「注文をまちがえる料理店」ができたからといって、認知症の状態にある人の問題がすべて解決したわけでもない。しかし働く人にとってもお客さんにとっても、間違いが受け入れられる場所は、何にも代えがたいものとなった。
(2) この企画を進めるにあたって、2つの重要なルールが設けられた。ひとつは「料理店としてのクオリティにこだわる」こと、もうひとつは「わざと間違えるような仕掛けはやらない」ということだった。
(3) 「注文をまちがえる料理店」は少しずつ、しかしたしかな広がりを見せている。これからも日本や世界のどこかで開店できるよう活動を続けていきたいと著者は考えている。