個々の企業やビジネスパーソンが、社会を変えるためにできることは何か。欧州ピーター・ドラッカー・ソサエティの創設者が、連帯による社会的ムーブメントの必要性を複数の事例とともに説く。


 社会における、何か大きなものを変えるためには、どうすればよいだろうか。誰も独力では動かせないもの、たとえば「人々の間に浸透している考え方」のような、大きな何かだ。

 必要なものはわかっている。社会的ムーブメントを起こすことだ。社会運動は、コミュニティのまとめ役や大学生だけの得意分野ではない。現在見られるように、ビジネスパーソンもムーブメントを起こすことができる。

 昨今は、営利企業が社会を本質的に豊かにしようと取り組む運動が、盛んになっている。つまり、株式公開企業を所有する人々のみを利するのではなく、その会社で働く社員、そして社会的意義に根差したイノベーションで恩恵を得る立場にある人々にも、利益をもたらそうという取り組みだ。

 あらゆる社会的ムーブメントと同様に、この動きも多くの人々が小さな火を灯すことから始まった。周りを見回してみれば、あなたも気づくはずだ。

 ●CEO個人や取締役会が、立場を明確にすべく積極的に決断している。

 たとえば、ユニリーバのCEOポール・ポールマンは、クラフト・ハインツによる同社への買収提案が持ち上がった際、長期的かつ持続可能なビジネス哲学に基づき、勇敢に会社を守った。ミシュランのCEOジャン=ドミニク・スナールは、社員に権限を与え、やる気を引き出すために、大規模な生産改革を行った。中国のハイアール・グループ(海爾集団)のCEO張瑞敏(チャン・ルエミン)は、起業家精神あふれる小規模ユニット群から成る、ユニークな組織を生み出した。

 フランスの建設大手ヴァンシ・グループは、CEOザビエ・ウリアの指揮下、構成会社3000社で起業家的創造性を喚起すべく、大胆に分権化した組織モデルを考案し成功した。タッパーウェア・ブランドのCEOリック・ゴーイングスは、先進国市場と新興国市場の両方で、女性の経済的地位向上の取り組みを進めている。

 ●ネットワークとコミュニティが、資本主義の新たな規範と形態を広めている。

「包括的資本主義のための連合(Coalition for Inclusive Capitalism)」や、「良識ある資本主義(Conscious Capitalism)」などのグループが生まれている。こうしたグループのミッションは、後者の言葉を借りれば「ビジネスを通じて人類を進化させるために、企業をインスパイアし、教育し、力づける」ことだ。

 また一部のグループは、Bコーポレーション協同組合など、企業のための新しい統治形態を考案している。特に注目すべきは、サムパーク基金のような社会事業団体で見られる、優れた創造的マネジメントだ。HCLテクノロジーズの元CEOビニート・ナイアが立ち上げた同基金は、インド地方部の子どもたちを後押しし、フルーガル・イノベーションの思考法と発明法を学ばせるミッションに取り組んでいる。

 ●経営思想家は、現代の最大の経営課題は、人間にまつわるものだと考えるようになっている。

 人工知能とその他の先端デジタル技術をめぐる、グローバルな会話の中で起きている、変化に注目してほしい。「これらの強力な力は、人間の創造力を不要にするためではなく、伸ばすためのものでなければならない」という主張が増えている。

 スマート機器は人々がより迅速に答えを見出す一助になるが、取り組むべき問いを立てることはできない。我々はこうしたテクノロジーを、人間の可能性――間違いなく、地球上で最も有効活用されていない資源――を引き出すため、そして仕事により高次の目的や意義、価値をもたらすために活用しなければならないのだ。

 上記すべての活動の火花は、熱と光を生み出している。しかし、多くの小さな火花を煽り立てて、赤々と燃えたぎる炎にするには、どうすればよいのだろうか。