カビを完全に避けることは不可能

 カビとミトコンドリアに関する主要な研究論文によると「マイコトキシンに安全な濃度はない」(*2)。僕もこれに同意するが、現実世界で生きているかぎり、マイコトキシンを完全に避けることは不可能だと認めてもいる。だから、僕は調節ができそうなときは毒に触れるのを最小限にするように努め、そうする価値があるときは低度の曝露は受け入れている。過度の不安と恐怖もストレスの一種であって、やはりミトコンドリアに悪いのだから!

 マイコトキシンが健康に及ぼす影響はいくつかの要因に依る。あなたがさらされたマイコトキシンの種類と量、さらされた時間、環境中に存在している他の毒素、そしてあなた個人の身体的プロフィール(年齢、性別、遺伝的背景など)。

 食事もまたこの毒素に対する感受性に重要な役割を負っている。ビタミンがいくつか欠けているとき、食事の量が不充分なとき、アルコールを乱用しているとき、ミトコンドリアはすでに弱っているので、さらに攻撃を受けやすい(*3)。そこへマイコトキシンを吸入したら、ひどい気分になるだろう。

 アメリカでは全人口の28%がカビに対し遺伝的感受性がある。この人たちはマイコトキシンにさらされるとさまざまな症状を起こす。たとえば、頭のもやもや感、認知障害、疲労、関節痛、吐き気、体重増、慢性副鼻腔炎、喘息など。僕はそのうちの一人だ。

 もしもパフォーマンスが良くないとか調子が優れないのなら必ず理由がある! 僕が、脳障害の専門家ダニエル・G・エイメン医学博士にカビ毒への曝露の影響についてインタビューしたとき、博士はこう語った。

 認知機能の低下は決して正常なことではない。急にものが思い出せなくなったら「歳をとった」証拠だなどと片づけてはならない。そうではなく、体の発するシグナルに注意することだ。どんなかすかなことであれ、この先に起こるトラブルの前兆かもしれない。

 エイメン博士の話では、カビにさらされる前とあととでIQテストを受けるとしたら、あとのほうが15ポイント低くなるくらいに、カビにさらされることは脳を損なうという。とんでもないことだ。

あなたはカビのせいでいらいらしている?

 集中できずに努力が足りないと自分を責めた「不調の日」のことを考えてみてほしい。あなたのパフォーマンスを損ねていたのは努力不足じゃなく、ミトコンドリアの機能を阻害した、毒素への曝露のせいだったのかもしれない。

 エイメン博士はSPECT(単光子放射断層撮影法)脳スキャンテクノロジーを使って、カビが脳に与える物理的な影響を観察することができる。説明によれば、博士が見てきたスキャン画像では、カビにさらされた脳は目に見えて扁桃体が損傷を受けている。恐怖、怒り、不安といった衝動的、反応的な感情に関連した脳の部位だ。

 扁桃体が損なわれると、人は理由もなく急に激しく怒りだしてしまうことがある。これはあなたのパフォーマンスを、いわんや人間関係をも破壊してしまう。

 エイメン博士によると、脳スキャン画像にカビ毒の曝露が表われている人は自分を嫌っていることがしばしばだ。なんでそんなに自分の感情をコントロールするのに苦労するのか、わからないからだ──少なくとも、脳の画像を自身の目で見て損傷を確かめるまでは。