旧優生保護法問題でマスコミが国を糾弾している。しかし、同法の前身である旧国民優生法の時代から、朝日新聞を始め、マスコミ各社が「優生思想で日本民族を繁栄させる」ことをバンバン喧伝し、世論形成に絶大な威力を振るったことは報じられないままだ。(ノンフィクションライター 窪田順生)

旧優生保護法下の悪行を
マスコミはこぞって取り上げるが…

1万6000人もの人が子どもを持つ機会を絶たれた旧優生保護法の責任はマスコミにもあります。旧優生保護法の前身にあたる旧国民優生法成立後、優生思想礼賛記事をバンバン掲載し、世論形成に大きな役割を果たしたのは他ならぬマスコミ各社。にもかかわらず、自らの罪をスルーする厚顔無恥な報道姿勢は醜悪だ

 なぜ彼らは、この問題をまったく自分たちに関係ないことのような顔をして平気で報じることができるのか。嫌味とかではなく、本気でその神経を疑ってしまう。

 旧優生保護法のもとで、約1万6000人にも上る障害者が不妊手術を強制的に受けさせられた問題を扱う、マスコミの「報道スタンス」のことだ。

 戦後間もない1948年、人口抑制や強姦などによる「望まぬ出産」の回避を目的として、旧社会党の女性議員たちが中心となった議員立法で成立した「優生保護法」は、その名の通り「優生思想」を色濃く反映しており、「総則」にも「不良な子孫の出生防止」が掲げられていた。

 どんな悪法も、できてしまえば役人は機械的に実行していく。かくして、96年に母体保護法にとって代わるまで、膨大な数の障害者の方たちが、自分の意志に反して不妊手術を受けさせられるという悲劇が引き起こされたのだ。

「そんな非人道的なことを日本がやっていたなんて!」「政府は過ちを認めて被害者の方たちを救済すべきだ!」

 そんな怒りの声が聞こえてきそうだが、この問題を扱うマスコミの基本的なスタンスも同様だ。わかりやすいのがNHKの「グローズアップ現代+」で4月25日に放送した「”私は不妊手術を強いられた”~追跡・旧優生保護法~」の番組紹介文である。

《番組では関係者を独自に取材。そこからは「社会のためになる」という国のかけ声のもと、社会に潜む“優生思想”を背景に強制手術が広がった実態が明らかになってきた》

 クロ現らしい硬派なスタンスじゃないかと思うかもしれないが、筆者からすると、よくもまあそんな当事者意識ゼロの発言ができるものだ、という驚きしかない。