アメリカでお金を集めるより、日本で集めるほうが圧倒的にラク

竹内  そんなスキル、私だって全然なかったんですよ。2007年に大学に戻るまでは、経産省や総務省がどんな役所か、どんなことをすれば研究資金をもらえるかは知らなかったんですよ。だから、国家プロジェクトへの申請書を書き続けたけれども、落選につぐ落選。採用されませんでした。

 そんなとき学んだのは、なぜ国の資金の投資先が私でなければならないのか、他がやってない研究なのか、その成果はどれだけの意味があるのかということだったんです。そこで私が考えた解決策こそ、MBAや東芝のマーケティングで身につけたマッチング戦略だったんですね。どういうものかというと、自分一人でやらずに、その分野に詳しいA教授とB教授とをくっつけて、その輪の中に私も入れてもらうという戦略です。調べてみると、フラッシュメモリにつながる成果がたくさんあったんです。

 私の場合は失敗の連続の中から自分なりの方法を見つけて研究資金をもらえるようになっていったんですが、基礎研究の分野であっても、ノーベル賞を取れるような先生って、この辺のスキルがバツグンです。基礎研究とか、応用研究に関係ないですね。しかも、お金を引き出したからには、成果もきちんと出すということでも徹底しています。

ちきりん  基礎研究の分野って、ほとんどが海のモノとも山のモノともわからない世界じゃないですか。iPS細胞で有名な京都大学の山中伸弥先生みたいに最初からブレイクすれば別でしょうけど、そんな例はごく一部ですよね。だいたいが成果が出ていない初期段階でも大きな研究費が必要になる。それを出してもらおうと思えば、その辺ができる人でないとお金がつかない。

竹内  科研費ってのは、経産省などの研究資金にくらべれば、広く浅くお金を配分、悪く言うとバラマキに近いと思いますよ。だから基礎研究の人もやり方さえちゃんと身につければ、世の中、そんなに理不尽でもないんです。さっき私が言ったようなマッチング戦略だっていい。戦略を間違えずに提案していけば、それなりに研究費は獲得できるものだと思います。

 日本にくらべて、シリコンバレーなんて提案合戦ですよ。だからアメリカでお金を集めるより、日本で集めるほうが競争が厳しくなくて、相対的にはラクということも知っておいて欲しいですね。この研究環境を活かさない手はないんです。

 私は自分が何かをやりたいだけの人間なんです。ただ、自分がいい研究をするためには、いい人材を集めなければいけない。研究資金以上に、その点が今後の課題です。

ちきりん  私は先生とは反対で、自分にはたいした能力もないし、大きなことはできないけれど、世の中には能力のある人が山ほどいるので、その人たちが活躍できる道を選べるよう、影響を与えられたらいいな、と思っているんです。たとえば、優れた才能をもっているのに赤字部門で何年もつまらない作業のためにサービス残業してる、そのばからしさに本人自身が気づいていない場合、私がチョンチョンと突っつくことで、気づかせてあげられるかもしれない。

竹内  立派な教育ビジネスですね。私は最先端の研究を行い、世界中の研究者と競争する真剣勝負の中でしか、本当に良い教育はできないのではないかと思っています。研究って、競争の世界ですよね。だから、みんなが寝ててくれたり、提案も何もしないでいてくれたほうがライバルが減ってラクなんです。自分だけ、ピョーンと出られるから。

ちきりん  先生、最後にしっかりホンネをおっしゃいましたね(笑)。今回は私から「ぜひ」ということでお越しいただきましたが、最初から最後までホンネで語っていただけてすごく勉強になったし、楽しかったです。ありがとうございました。

竹内  こちらこそ、楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございます。 (おわり)

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