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明るい未来のつくりかた
【第4回】 2012年4月20日
著者・コラム紹介バックナンバー
市川文子 [株式会社博報堂イノベーションラボ 研究員]

アイスランド再生への知恵(3)
起業を育むアイデアとチャレンジ精神

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あまり知られていないが、アイスランドでは、特定市場に特化しグローバルに展開している企業が、実は数多くうまれている。前回「問題を発見する」ことを重視する教育について触れたが、そうした問題発見・解決能力が、起業の活発さにつながっているようだ。金融危機の煽りで2度の倒産を経ながら、起業に情熱を燃やすボイエさんの話も紹介するが、彼らの前向きな姿勢こそが、金融危機から再生しようとするアイスランド原動力になっている。

金融危機で浮き彫りになったアイスランド企業の強さ

 「アイスランドの会社」と言われて、思いつく企業がおありだろうか?

 恥ずかしい話だが、私は現地を訪れることになるまで、一つも知らなかった。しかし蓋を開ければ、特定市場で世界的に評価されている企業がいくつか存在する。

 たとえば、魚の加工用機械を作るマレル社。その業容は、漁獲高で世界第12位を誇るアイスランドならではだ。あまり知られていないが、漁業というのは穫れ高ももちろん重要だが、水揚げしてからの加工技術によって、その価値が大きく変わる。マレル社はまさにその付加価値作りのニーズを背景に成長した企業だ。今では魚だけでなく、肉の加工機械の分野でも、世界第1位のシェアを誇る。

 そしてもう一つ、忘れてならないのが、義肢メーカーのオズール社だ。彼らは、つい先日米Fast Company誌が選んだ「世界で最もイノベーティブな会社50」に選ばれている。

オズ−ル社のトイレマーク。男女ともに義肢を履いている!

 パラリンピックなどでヘラのような形の義肢を付け、想像を越えるスピードで走る選手を見た方は多いだろう。私たちが本社を訪れた際も、膝下にオズール社の製品を付けたデンマークの選手が、試合前の調整に余念がなかった。スポーツ用だけでなく、日常生活の様々な用途をサポートする商品については会社紹介ビデオからも垣間みることができるが、その動きは実に繊細だ。

 両社のみならず、アイスランドで起業が盛んなことは、グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(通称GEM)が毎年発行している報告書から見て取れる。

               GEM報告書を基に市川作成

 特に興味深いのは、過去3年半の間に起業した人の割合を示す「起業活動率」だ。2009年度版によれば、アイスランドの起業活動率は11.45%。つまり、少なくとも10人に1人が起業活動をしている計算だ。21位と聞いて、順位が低い印象を持たれるかもしれないが、その上位にはウガンダ、グアテマラ、イエメンといった発展途上国が居並ぶ。一般的には、国の経済が発達すると、起業に必要なアイデアや市民の起業意欲が乏しくなるといわれるなか、アイスランドは調査対象の先進国20ヵ国中の例外なのである。

 アイスランドの場合、そうした起業数とともに特筆すべきは、高い技術で特定領域に特化し、グロ―バルに展開している企業が多い点だろう。先に挙げた、マレル社やオズール社も然りである。そもそも国内市場が小さすぎて、海外に展開するしか生き残る道がないからだ。そして海外市場で成功するには、世界各地に関する知識が欠かせない。だからマレル社もオズール社も「多様性」を企業の理念として掲げている。

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    市川文子[株式会社博報堂イノベーションラボ 研究員]

    株式会社博報堂イノベーションラボ研究員。慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。卒業とともにノキア・フィンランドに入社。以来9年間、ユーザエクスペリエンスのエキスパートとして世界各国で フィールドワークの実施とディレクションを行い、製品・サービスの企画開発に携わる。2008年にノキアを退社。以降、フリーのコンサルタントとして国内外の企業の商品ならびに戦略開発を行ってきた。2010年より博報堂イノベーションラボに参加。一児の母。


    明るい未来のつくりかた

    アイスランドは、金融危機による財政破綻で社会・生活の「断絶」を経験した。人々はどのように立ち上がってきたのか。その「断絶」と「再生」のプロセスを エスノグラフィーの手法を用いて学び、東日本大震災による社会の「断絶」から真の復興に向かうための考え方や仕組みづくりの示唆を得ていく。

    「明るい未来のつくりかた」

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