「毎日、1日1億円の赤字が出ており、このままでは債務超過になる。存続の危機です。なにとぞ赤字削減にご協力いただきたい」
日本郵便と日本通運が宅配便事業統合のために発足させたJPエクスプレス(JPEX)の幹部は、毎朝の朝礼で職員に檄を飛ばし続けている。
だが、幹部に懇願される職員は「赤字の原因はわれわれが仕事をさぼっているせいでも、大量に残業しているせいでもない。単に会社の体制が整わず、仕事がないからだろう」と戸惑うばかりだ。
JPEXは2008年に設立され、昨年10月までに日本郵便の「ゆうパック」と日通の「ペリカン便」を事業統合する計画だった。統合合意の07年当時、民営化されたばかりの日本郵政グループのシンボルとなるべきモデル事業で、赤字体質の宅配便事業を統合し、業界2強のヤマト運輸、佐川急便を追い上げるはずだった。
だが、現実には準備不足などを理由に総務省の認可を得られず、昨年4月、今年9月の2度にわたって延期されている。現時点でJPEX傘下にあるのはペリカン便だけで、ゆうパック統合のメドは立っていない。
日本郵便は統合を前提に出向させた7000人もの職員を、管理職を残して引き揚げた。JPEXはペリカン便だけの片翼飛行に加え、不況による物数減のダブルパンチに見舞われ、青息吐息だ。「今年4~9月の半年で250億円前後の赤字が発生し、500億円の資本金・資本準備金の半分以上を食いつぶした。債務超過も現実にありうる」とJPEX関係者は打ち明ける。
「決算、収益に関する数字はいっさい開示しない」(広報部)というのがJPEXの公式見解。だが、現場では「政府保証が付かなければつぶれる日本航空と同じ。日本郵便がJPEXに債務保証を付けなければ危ない」という経営危機説まで飛び交っている。
すでに日通は10月に34%保有していたJPEX株のうち20%を日本郵便に引き取らせ、持ち分法適用会社からはずしている。日通の決算報告書には株式譲渡理由として「出資比率に応じた経営責任を負うことが過大な負担となっているため」と記されている。
日本郵便と日通の関係者は共に、「11月上旬までに事業統合できなければ、お歳暮などの年末商戦に出遅れ、2強の背中はさらに遠のく」としていたが、11月半ばを過ぎても統合の気配はない。
なにより、民主党政権の誕生で郵政民営化の大幅見直しは確実で、JPEXの存続自体が怪しいものになっている。日本郵便によるJPEX救済合併どころか、今では日通が宅配便事業をヤマトや佐川に譲渡するという観測すら浮上している。JPEXは宅配便再編の思わぬ目玉となりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)