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連載経済小説 東京崩壊
【第19回】 2012年4月23日
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高嶋哲夫 [作家]

ウォーミングアップ

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【前回までのあらすじ】
森嶋は優美子に誘われ新宿の高層ビルにあるレストランに入った。2人で仕事の話をしていると突然、地震が起こった。震度6弱。店内はパニック状態に。2人は非常階段から地上に降り、霞が関に向かう。霞が関に着くと、森嶋は優美子と別れて国交省に行った。
国交省の中は薄暗く、エレベーターも動いていない。森嶋は階段を駆け上がり、元の職場に行く。部屋では職員が入り乱れて作業をしていた。電話がひっきりなしに鳴り、怒鳴るような声で対応している。省内ではすでに緊急対策室が立ち上がっていた。携帯を見ると村津から首都移転チームへの一斉メールが。そこには〈明後日、定時に国交省に集合〉と書かれていた。
政府の危機管理室が総理官邸地下に設けられた。しかし緊急時のマニュアルは役立たず、有効な対策を打ち出すことができなかった。
首都移転チームの室内には、村津のほか10人ほどが集まった。何度か各省庁の緊急対策本部から応援要請が来たが、村津は首都移転チームにも緊急の役割があるとすべて断った。
「帰宅できる者は帰って、休んでおけ」と村津がメンバーに告げる。ほとんど全員が立ち上がり帰り仕度を始めた。庁舎の外に出ると、あれほどいた機動隊の姿はちらほら見えるだけ。通りはすでに片付けられ、一見普段通りの営みが行なわれているように見えた。

 

第2章

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 2日ぶりに帰った部屋だった。

 森嶋はドアの前に立って部屋の中を見回した。

 想像していたより被害は少なかった。というより家具や食器類がほとんどなかったので、飛び散ったモノが少なかったのだ。それでも本棚の本が全て、床にばらまかれていた。

 冷蔵庫のドアが開いて、床が濡れていた。氷がこぼれて融けたのだ。牛乳パックを取ってひと口飲んだが、変わりがなかったのでそのまま元に戻した。

 30分ほどかけて部屋を片付けて、カバンから出した書類を机の上に置いた。

 いちばん上のファイルは高脇の論文だ。総理に呼ばれたときに、森嶋も渡されたのだ。この論文の役割も終わった。

 机の引き出しに入れようとした手を止めた。「連続して起こるマグニチュード5クラスの地震」という言葉が目についたのだ。

 それから1時間余り、森嶋は初めて読む科学論文と格闘した。数式と特別な専門用語は飛ばしたが、なんとか概要は理解することができた。

 読み終わるとすぐに携帯電話のメモリーを出した。

 呼び出し音が10回以上続いた後に、高脇の声が聞こえた。

 「あの論文のことだが――」

〈5年以内に90パーセントと言ったが、今回の地震でさらに短期間になり、確率が高くなる可能性がある〉

 森嶋の声をさえぎるように、高脇の声が帰ってくる。

〈東京の地下のプレートはガタガタになっている。先日のような小さな地震が何回か続いた後、ドカンとでかいのがやってくる。論文に書いた通りだ。だから──〉

 「これからそっちに行く」

 高脇の言葉をさえぎって言った。先日のような小さな地震、高脇の声が脳裏で繰り返されている。 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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