リテンションに重点を置く企業は
たったの18%しかない

 私はこの解約防止を目的とした部長に就任し、真正面からリテンションマーケティング向き合うことになりました。

 そもそも、この「リテンションマーケティング」とは何でしょうか。
「リテンション」は、日本語では、保持、維持、記憶などと訳されます。マーケティングの分野では顧客との関係を維持することを意味します。

 既存顧客維持コストと新規顧客獲得コストの関係については、「1:5の法則」が一般的に知られています。既存顧客の維持に比べ、新規顧客の獲得には5倍のコストがかかるという考え方で、新規顧客獲得よりも既存顧客維持(リテンション)に力を注いだ方が得策ということです。
 特に一度契約を結ぶことで定期的に料金の支払いが発生する会員制事業(サブスクリプションモデル)においては、顧客の解約を防ぎ、継続的にサービスを利用してもらうことが安定して利益を上げるポイントになります。
 しかし企業は一般的な傾向として、リテンションよりも新規顧客の獲得の方により大きな関心を寄せています。

「新規顧客の獲得により重点を置く企業が44%であるのに対しリテンションに重点を置く企業は18%」というデータもあります(invesp LLC「Costs of customers acquisition vs, customers retention」)。

会社の戦略には不可欠な
「マーケティング」の部署がない会社もある

 WOWOWをはじめとした有料放送は、会員制事業なのでリテンションマーケティングは非常に重要です。しかし、顧客減少に悩んでいた当時の社内にはそもそも「マーケティング」が必要だという考え方も、それを行う部署もありませんでした。

 これはWOWOWに限ったことではなく、マーケティングの視点が社内にない、マーケティングをしっかり実践する部署がないという状態は、今でも日本の会社には珍しくありません。

 マーケティングという言葉は非常に一般的で、皆が知っていますが、それが何のために何を行うことなのかという点では、各社解釈がまちまちです。現場の営業マンの中には、マーケティングに対して「数字ばっかりいじって、何も解決しない」といった不信感を持つ人もまだまだいるようです。当時のWOWOWもまさにそのような状態でした。
 「解約を止めるのは難しい」という認識が社内に蔓延するなかで、新たに解約防止部が発足し、部長の私を含めメンバー6名は不安な船出をしたのでした。

(第3回へ続く)