組織にとって有害な人格の持ち主が、予想に反して順調に昇進していく。そんな光景を目にしたことはないだろうか。筆者の研究によれば、上司の前で巧みに政治的手腕を発揮できることが一因だという。正直で謙虚な人も、昇進を目指すのであれば、社内政治と無関係ではいられない。


 時として、まっとうでない人が昇進することがある。

 たとえば、嘘つきで、臆面もなく人を操ろうとする人(心理学でいうマキャベリスト)。衝動的な性格で、スリルを好んで求めながら、罪の意識がまったくない人(サイコパシー/精神病質者/反社会的人格障害)。そして、誇大妄想、特権意識、優越感を持つ、自己中心的な人(ナルシスト)である。

 これらは人格の「邪悪な3大特性dark triad)」として知られている。このうち1つ以上に該当する従業員は、不正行為、職場での詐欺的または搾取的な行為、非倫理的な意思決定をする傾向がより強い。

 正直で謙虚な人にとっては、このような従業員が昇進するのを横目で見ているのはたまらないだろう。彼らは有害であるにもかかわらず、なぜ出世するのだろうか。どのようにして成功を収めているのだろうか。

 私は『パーソナリティ・アンド・インディビジュアル・ディファレンシズ』誌に最近発表した研究の中で、従業員間における政治的手腕の影響を考察した。政治的手腕とは、「人脈の構築、他者への影響力、社会的鋭敏性、他者との交わりにおける誠実な印象の付与、に貢献するプラスの社会的能力」と定義される。

 私はシンガポールで、さまざまな業種と職位の従業員110人にアンケート調査を行い、職場における、みずからの政治的手腕をどう評価しているか尋ねた。また、彼らの「人格のH因子(H-factor of personality)」に関するスコア判定も行った。H因子のスコアの高さは、正直で謙虚(honesty-humility)な性格を示す。低いスコアは、邪悪な3大特性に共通する主要素と、ほぼ等しい。さらに私は、これらの従業員の上司に対してもアンケート調査を行った。

 その結果、私は次のことに気づいた。有害(H因子のスコアが低い)で、かつ政治的手腕を上司から高く評価された人は、高い業績評価を受ける傾向がより強かった。言い換えると、有害な人すべてが政治的手腕を持ち合わせているわけではなく、「上司の見ているところで政治的手腕を効果的に発揮する、有害な従業員」が業績優秀者と見なされていた。そして当然ながら、業績トップと見なされた人ほど、昇進する可能性が高かった。