ある投資教育講座の1コマとして、投資理論の歴史を話すことにした。筆者が担当することになっている12コマの中の一つなのだが、問題は時間が約30分と短いことだ。この時間で何を話すかを迷ったこともあって、30分の何倍も準備に時間がかかった。

 投資理論の歴史をどう要約するかは、話し手の目の付けどころによるが、(1)モダンポートフォリオ理論(MPT)以前、(2)MPTの時代、(3)効率的市場仮説をめぐる論争、(4)金融工学の流行、(5)行動ファイナンスの登場、(6)神経ファイナンス、といった流れでまとめた。それぞれの項目には時代的な重なりがあり、特に、(3)は(2)の後半とほぼ重なっている。

 MPTはハリー・マルコビッツのポートフォリオ選択に関する論文(1952年)から始まったとするのが衆目の一致するところだろうが、これ以前の時代で注目すべきは、ベンジャミン・グレアムのバリュー投資的な個別証券の価値分析だろう。現代の投資家ではウォーレン・バフェットがこの系譜にある。

 マルコビッツ、それに資本資産価格モデル理論(CAPM)のウィリアム・F・シャープは共にノーベル経済学賞受賞者でもあり、紹介すべきだろう。ポートフォリオ理論がリスク分散を前提としながら証券の価値を求める際の「リスクプレミアム」を説明しようとする理論であり、MPT以前の時代の話と問題意識がつながる。

 効率的市場仮説に関わる研究と論争は落とすことができない話題だ。中心人物は文句なしにユージン・ファマだ。論争は、実務界も含めてまだ継続中にも見えるが、「市場の効率性」を「アクティブ運用が市場平均に勝てない」という話で定義する向きと、「効率的情報伝達と正しい解釈の結果の、正しい資産価格の実現」と解する向きがあって、議論がかみ合っていない感じだ。後者の場合は前者も成り立つが、前者の成立は必ずしも後者の成立を意味しない。

 私見では、本質的なのは後者の定義だが、これは現実の市場の姿ではない。つまり、市場価格はしばしば大きく間違えているが、特定のアクティブ運用(方法あるいは人)が市場平均に勝ち続けるのは難しいのが現実だ。だが、このあたりを十分説明しようとすると時間が足りなくなるだろう。