3年前に新設された広島市民球場に構造上の懸念が浮上している。必要な杭が打たれていないところがあるという。構造計算書などを分析した市民が気付き、広島市に質問状を提出した。市は、最新の技法を活用しており「安全上問題ない」と回答したが、データを示していない。広島市民球場の構造問題をレポートする。
「柱の下に杭が打たれていないなんて理屈に合わない。この事実を知った限り、建築家として疑義をたださないわけにはいかない」
険しい表情でこう語るのは、広島市に住む1級建築士のAさん。Aさんは昨年の冬、知り合いからある建物の資料を見せられ、建築家としての意見を求められた。広島市が建設した広島市民球場(マツダスタジアム)の構造図だ。
図面を見てAさんはおかしなことに気付いたという。打つべきところに杭が打たれていない箇所があったからだ。それも数ヵ所ではない。そこで、構造に詳しい建築家仲間にも見てもらったが、返ってきたのは自分と同じような驚きの声だった。そのまま黙っているわけにはいかないと思ったという。
広島市民球場は旧球場の老朽化に伴い建設されたもので、2009年3月に完成した。市中心部にある旧球場の利便性のよさなどから、現地での建て替えを望む声も多かったが、秋葉忠利市長(当時)の「鶴の一声」で、JR貨物ヤード跡地での新設となった。建設費が約90億円で済むというコスト面の優位性が決め手とされた。建設事業の主体は広島市で、いわゆる公設民営となった。
Aさんは今年2月28日、広島市に疑義を問いただす要請文を知り合いとの連名で提出した。最初に疑問を提起した知り合いというのが、木原康男さんだ。市OBで、在職中は都市政策部長も経験した人物だ。秋葉前市長時代に進められた新球場建設事業にも関わり、さまざまな疑問を抱いたという。退職後は関連資料を情報開示請求などを駆使して集め、調査・検証を続けていた。