社内のコラボレーションを促進するうえで、最初に必要なものは何か。絆や信頼が何より重要だと考えて、ボーリング大会などのレクリエーションでそれを達成しようとする企業は多いが、食品大手マースで協働のフレームワークを開発した筆者によれば、それらはすべて的外れであると指摘する。


 企業におけるチーム・ビルディングの取り組みは、ほとんどが時間と金の無駄遣いである。この見解は、チームの有効性に関する私の25年以上に及ぶ研究と実践に基づいている。

 このうち17年間を、私は350億ドル規模のグローバル企業であるマース(M&M'Sなどを製造する大手食品会社)で過ごした。マース一族が所有する同社は、従業員間のコラボレーションに尽力している。

 多くの企業は、チーム・ビルディングへの投資を決めると、ボーリング大会やフィールドアスレチックなどの社外イベントをもとうとする。このようなイベントは、時として非常に大掛かりなものである。

 ある販売・マーケティング担当幹部は、こんな話をしてくれた。

 彼は20人の同僚と連れ立って飛行機でロンドンに行き、高級ホテルに泊まって、ニュージーランドから来たマオリ族の一団に、戦いの前に踊る伝統的なダンスである「ハカ」を習ったそうだ。このエクササイズは、絆を築き、チーム意識を高め、ひいてはコラボレーションを向上させるよう企図されたものであった。

 だが、それは裏腹に、恥ずかしさと冷笑的態度を助長した。数ヵ月後、経営不振であったその事業部は売却された。

 我々マースも、この一般的な通念と無縁ではなかった。コラボレーションについて真剣に学ぼうと尽力する以前には、そうした活動を行ったこともある。あるときは、数千ドルを投じてオーケストラを雇い、社外の静養所で上級幹部の一団に、1時間かけて協働(ハーモニー)について教えてもらった。オーケストラはよい例えであり、興味深い経験ではあった。だが、その幹部らに協働のあり方を改善させるには何の役にも立たなかった。

 このようなイベントは、少しの間は人同士の親近感を強めるかもしれない。感情の共有によって絆が生まれることもありうる。だがこうした絆は、成果重視の組織における日々のプレッシャーの下では、長続きしない。

 2011年にマースの人事部門の上級幹部たちは、全社的に従業員の調査を行って、チームの有効性を最大限に高める方法を解き明かそうと決意した。私が主導したその調査の結果、チーム・ビルディングに関する我々や他の人々の考えは、ほとんど間違っていたことが明らかになった。

 我々が学んだ最も重要なことは、質の高いコラボレーションは、絆と信頼から始まるものではないという事実である。それは、個々人のモチベーションから生じるのだ。

 調査は125のチームからのデータを用いた。その中には、メンバー数百名へのアンケート調査と、対面の聞き取り調査が含まれる。質問内容の一部は、チームの優先順位についてどの程度理解しているか、自分自身と他者の目標は何か、最も自信を持っていることと最も気にかかっていることは何か、などであった。

 聞き取りを通して見られた代表的な論調を1つ挙げるとすれば、それは次の注目すべき意見に要約される。「私はチームの仲間が本当に好きで、一目置いています。私たちはもっと協働すべきであることもわかっています。ただ、その協働をしないのです」

 アンケート調査から明らかになったのは、チームメンバーの個々人は自分の目標が非常に明確であると感じ、任せられた仕事に対して強い当事者意識を持っていることである。

 我々は、さらに調査をするために別の情報源を頼り、マースの複数年にわたる360度リーダーシップ評価のデータを分析した。その中で「強み」として最も多く挙げられていたのは、「行動志向」と「成果重視」である。

 全体像が次第に明らかになっていった。マースには、自分個人に与えられた任務と責任には心から尽力したい、という従業員がたくさんいたのだ。彼らがきわめて優れているのはその種の仕事であり、協働せずに成果を上げていた。さらに、その結果に対して上司や業績評価制度からお墨付きを得ていた。

 マースでコラボレーションがなされていないのは、皮肉なことに、個々の従業員が課せられた仕事の遂行に秀でていることと、その面での優秀さを経営陣が後押ししていることが相まった結果であるとわかったのだ。

 一方で、コラボレーションは理想として掲げられてはいたものの、具体的な条件やルールのない曖昧な目標であった。そのうえ、コラボレーションは面倒なものと受け止められていた。それは責任の所在をあやふやにし、具体的な褒賞はほとんどなかったからだ。