「インターネットというのは便利なだけではないな」と実感することはないだろうか。身近なところでは、ツイッターやブログの炎上事件。深刻なところでは、チュニジアから近隣諸国へ拡大した「アラブの春」や、アメリカのサブプライムローン問題から端を発した世界金融危機。
「世界がつながる」ということは、情報が瞬時に得られる便利さを手に入れることとひきかえに、些細なできごとがきっかけとなって“情報のドミノ倒し”が起こりかねない脆さをも同時に受け入れるということなのだ。
シリコンバレーを本拠に活躍するベンチャーキャピタリストで、『つながりすぎた世界』(原題:Overconnected)の著者であるウィリアム・ダビドウ氏に、世界のつながりが増すにつれて今なにが起こりつつあるのか、起こりうるマイナスの影響に対する備えはあるのかについてお話をうかがった。
(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

ニューヨーク証券取引所ではいまや
取引量の80%をコンピュータが取り仕切っている

――以前、『ネット・バカ』(青土社刊、原題:The Shallows)を執筆したニコラス・カー氏にインタビューしたことがあります。彼はインターネットが脳に与える影響を説明してくれました。あなたが書かれた『つながりすぎた世界』は、インターネットのさらに深刻なマイナスの影響について教えてくれました。たとえば、グローバル経済危機においてインターネットが一種の触媒として作用していた点を指摘していますが、ほかにも例を挙げていただけませんか?

インターネットが世界をつなげるほど<br />私たちの社会は脆くなるウィリアム・H・ダビドウ投資会社モール・ダビドウ・ベンチャーズ顧問。
ダートマス大学、カリフォルニア工科大学、スタンフォードで電気工学を学んだ後、インテルに入社。ヒューレット・パッカード、ゼネラル・エレクトリックを経て現職。IT業界の経営者およびベンチャーキャピタリストとして30年以上の経験を持つ。著書に『つながりすぎた世界』(ダイヤモンド社)、『ハイテク企業のマーケティング戦略』(ティービーエス・ブリタニカ)などがある。

 「つながりすぎ」についてはまず、2つのことを指摘したいと思います。ひとつは「急速な環境の変化」、そしてもうひとつは、「我々がすることの、インターネットによって引き起こされる、急速な変化」です。

 前者に関しては、典型的な例が「高頻度取引」です。

 2005年はニューヨーク証券取引所(NYSE)における全取引の80%が実際にNYSEで取引されていましたが、5年後の2010年にはNYSEで取引されたのはわずか20%でした。残りの80%は代替取引システムで取引され、それは基本的に電子取引のことです。

 NYSEは市場を安定させるべく、ありとあらゆる種類の規制を敷いていました。「サーキット・ブレーカー」と呼ばれるものもそのひとつで、短時間のうちに10%以上の値動きをした銘柄の取引を止めるというものです。

 しかし、こうしたルールは電子取引には適用されませんでした。

 NYSEにはもともとストック・スペシャリストと呼ばれる人たちがいて、彼らが株の値動きを加減するために株の売買をしています。