『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 2019年1月号の特集タイトルは「フェイクニュース」である。

 テクノロジーの発達やSNSの浸透により、虚偽のニュースが瞬く間に広がる時代になった。それに伴うダメージは、企業にも個人にも急激に広がっている。専門家や学者たちも腰を上げ、いかに対応していくべきかを考え始める中、本特集では“フェイクニュース”を多面的に分析する。

 マサチューセッツ工科大学スローンスクール・オブ・マネジメント教授のシナン・アラル氏による「“フェイクニュース”といかに戦うか」では、“フェイクニュース”との戦い方について、その方法論を明かす。テクノロジーの発達やSNSの浸透で、虚偽のニュースがインターネットを介して社会にあっという間に広がる時代になった。しかも、それらのニュースは、嘘ではない情報よりも速く、遠くへ、深く広がり、その損害は企業活動や経済にも及んでいる。ツイッター上のデマ拡散を定量分析して一躍、世界に名をとどろかせた筆者は「虚偽のニュースの増殖を抑えることができるはずだ」と説く。

 HEC経営大学院准教授のルードビック・フランソワ氏らによる「理想のCEOを描いた“真実”の物語」では、2人の大学教員が学生とともに10年間続けた、ある企業についての実証実験をもとに、そのメカニズムと伝播力の大きさを紹介する。虚偽のニュースは、あっと言う間に広まり、個人や企業に多大な悪影響を及ぼす。その被害を助長する一つの仕組みが、検索アルゴリズムである。

『ジャーナリスト・リソース』編集長のデニース=マリエ・オードウェイ氏による「フェイクニュースの3つの問題」では、(1)人々はどれだけ多くの誤情報を消費するのか、(2)なぜ誤情報を信じるのか、(3)誤情報と戦う最善の方法は何か、という3つの問いについての研究成果を紹介する。

 ハーバード・ケネディスクール研究員のクレール・ワードル氏による「悪意なき誤情報に立ち向かう」では、情報を受けとる側の姿勢が示される。グローバル規模で情報汚染の爆発的拡大が目につくようになり、実行可能な解決が急務となっている。テクノロジー企業は研究者たちと密接に協力すべきであり、政策決定者はファクトチェッカーの言うことに耳を傾ける必要がある。そして我々全員が、虚偽のニュースを警戒しなければならない。この問題が解決することはないだろうが、被害を抑えるためにできることはある。

 ウィットネスプログラムディレクターのサム・グレゴリー氏へのインタビュー「ディープフェイク:恐るべき合成動画技術」では、フェイクニュースの最新事情が明かされる。オバマ前大統領のスピーチ画像にコメディアンが声と口の形をぴったり合わせた動画が出回った。ディープフェイクを使うと、誰かの映像の上に別人の映像を重ね、あたかもその人が話しているよう見せかけることができる。もはや合成メディアの技術は、本物と見分けがつかないぐらいに進化している。何を信頼すべきか。企業はどのように対処すべきか。

 国際大学主任研究員/講師の山口真一氏による「フェイクニュースの正体と情報社会の未来」では、SNSやクチコミなどネット言論の実証研究で注目を浴びる山口氏が、豊富な学術研究と山口氏が実施した独自調査に基づき、この問題の本質を明らかにする。欧米を中心にフェイクニュースの弊害が熱心に議論されているが、日本も他人事ではない。災害時に不確かなニュースが生成・拡散されて被災者を不安に陥れたり、新興キュレーションメディアや伝統的マスメディアが虚偽情報を流布して社会に混乱を招いたりと、企業や個人に甚大な被害をもたらし始めている。フェイクニュースは、いかなる動機で生成されるのか。また、そうした不確かな情報はなぜ拡散されるのだろうか。

 解剖学者の養老孟司氏へのインタビュー「意識は嘘を見抜けない」で、『バカの壁』『遺言。』などの著作で知られる養老氏は、ニュースはそもそも記号にすぎず、受け手が存在して初めて「情報」へと変化すると述べ、嘘は「記号化する段階」「受け取る・発信する段階」「無意識の段階」の3つの段階で発生すると説く。嘘の情報の正体を知ることで、はたして我々はそれらにうまく向き合い、対処できるのかを伺った。