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保田隆明 大学院発! 経済・金融ニュースの読み方

なぜ、エコノミークラスの劣悪環境は改善されないのか?

――なぜ今までなかった「プレミアムエコノミーシート」

保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]
【第7回】 2008年7月23日
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 最近、航空会社は従来のエコノミークラスのシートよりも少しスペースの広いプレミアムエコノミーシートを導入しつつある。これで得をするのは誰であろうか?今まで、あの劣悪なエコノミークラスのシートに体をうずめて10時間以上かけて欧米に旅行、もしくは出張をしていた人は、少し高い値段を支払うことで快適な空の旅をエンジョイできることになる。航空会社にしてみると、高い値段で利用する客が増えることで利益が向上する。供給者、需要者の両方にとってwin-winの関係に思える。

 しかし、なぜ今までこのプレミアムエコノミーシートがなかったのであろうか? 少し考えてみていただきたい。私は、航空会社がエコノミークラスの利用者のニーズをキチンと把握していなかったから、という説を立てた。しかし、ミクロ経済学の知識を使うと、違う説が登場する。ということで、今回はミクロ経済学の授業のお話だ。

顧客によって料金を変える
価格差別戦略

 ある日、そのミクロ経済学の授業で価格差別戦略について学んだ。これは、企業は消費者のタイプ別に提供する価格を変えるというものである。たとえば、大量に購入する人にはディスカウント価格で商品やサービスを提供したり、学生や子供に学割料金や半額の価格でサービスを提供するなど、企業が価格差別をしている場面は多々存在する。あるサービスに対する欲求が高い人ほど高い料金を支払ってもいいと考えるはずであり、企業にとってはどの消費者が高い欲求を持っているのかを認識し、そこにきちんと高い料金でサービスを提供することが重要となる。

 さて、もう一度先ほどの質問に戻る。なぜ航空会社は今までプレミアムエコノミークラスを導入していなかったのであろうか? 上述の価格差別戦略がヒントである。教授が「これはあくまでもこの価格戦略を感覚的に理解するための例だが」と言って紹介したのがまさにこの航空会社の例である。

 エコノミークラスの環境をこれ以上にないくらいに劣悪にしておくことによって、ビジネスクラスを利用している人に、間違ってもエコノミークラスを利用しようとは思わせないことが航空会社にとって重要だということである。エコノミークラスの快適度合いを上げようものなら、航空会社にとって利潤の高いビジネスクラスの客がエコノミーに流れてしまいかねない。当たり前のことであるが、エコノミークラスしか利用しない立場で考えると、なかなか気付かない点ではなかろうか。

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保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]

1974年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師。リーマン・ブラザーズ証券(東京/ニューヨーク)、UBS証券東京支店で投資銀行業務に携わる。その後、起業、投資ファンド運用等を経て、10年より小樽商科大学大学院准教授、14年より昭和女子大学准教授、2015年9月より現職。雑誌、テレビや講演で金融・経済をわかりやすく解説する。著書は「あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」(ともにダイヤモンド社)ほか多数。早大院商学研究科博士後期課程満期退学。
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保田隆明 大学院発! 経済・金融ニュースの読み方

仕事と両立しながら大学院に通い始めた保田隆明が、大学院で学ぶからこそ見えてきた新しい視点で、世の中の「経済・金融ニュース」をわかりやすく解説する。

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