『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 2019年5月号の特集タイトルは「セルフ・コンパッション」である。

 セルフ・コンパッションという概念がいま、EI(感情的知性)向上のカギを握るものとして、マインドフルネスとともに欧米のエグゼクティブから注目されている。セルフ・コンパッションを実践することで、(1)幸福感が高まったり、(2)ストレスを減少させたり、(3)レジリエンス(再起力)を高めたりする効果が確認されている。また、マネジャーがこれを実践した場合、自身の成長を加速させるだけでなく、チームの成長を促すという結果が示された。

 カリフォルニア大学バークレー校セリーナ・チェン教授による「セルフ・コンパッションは自分とチームを成長させる」では、マネジメントの視点からセルフ・コンパッションの効能を論じる。失敗したり挫折したりした時に自分に対して寛容になる「セルフ・コンパッション」の効用が、生活や仕事において認められ、その研究が進んでいる。この傾向が強い人は、自己を成長させるモチベーションが高く、強いオーセンティシティ(自分に嘘偽りがない性向)を示す。この2つはリーダーシップの発揮を促すなど、キャリアでの成功を支える重要な要素である。そして、セルフ・コンパッションは意識して伸ばすことができる。

 関西学院大学の有光興記教授による「セルフ・コンパッション:最良の自分であり続ける方法」では、セルフ・コンパッションという新しい概念を、その背後にある仏教やマインドフルネスにも触れたうえで、効用や実践方法について解説する。ストレスを受け、自己批判の思考を繰り返すだけでは、悩みは解決しない。自分に思いやりの気持ちを向けるとよいという発想から、この研究は始まった。

 臨床心理士のクリストファー・ジャーマーらによる3本の寄稿をまとめた「セルフ・コンパッションを日常で活かす方法」では、HBR.orgからセルフ・コンパッションに関わる記事を選び、困難な状況、ストレスやバーンアウト、極度の緊張などをうまくコントロールし、そこから立ち直る方法を紹介する。

 ガンバ大阪・宮本恒靖監督へのインタビュー「リーダーは自分の役割を問い続ける」では、勝てば称賛を浴びるが負けた時には厳しい批判にさらされる過酷な環境の中、自分を見失うことなくリーダーの職責をまっとうし続ける宮本氏に、その哲学を聞いた。サッカーはいまや国民的スポーツとなり、日本代表の試合はサッカーファンだけでなく日本中の注目を浴びる一大イベントである。宮本恒靖氏は現役時代、代表チームの全カテゴリーでキャプテンを務めた。その後、2018年にガンバ大阪の監督に就任すると、降格危機にあったチームの再建に成功した。

 東京大学東洋文化研究所・中島隆博教授へのインタビュー「あなたを苦しめる『わたし』の正体」では、「自分とは何か」という問いに挑み続けた人類の歴史を読み解く過程で、マインドフルネスやセルフ・コンパッションという禅の思想が注目を浴びる背景が明かされる。企業名ではなく個人の名前で勝負する時代。SNSで自分を積極的に発信する時代。その表現はさまざまだが、現代社会では自分らしさに価値を見出し、それを武器に戦うことが要求される。しかし、「自分とは何か」という問いをいくら突き詰めても「わたし」は見つからず、その先には苦しみしか訪れない。中島隆博教授は、そう警鐘を鳴らす。