大企業で働く道でも、ノマドでもいい

媚びない人生とは、本当の幸福とは何か<br />『媚びない人生』刊行記念特別対談<br />【本田直之×ジョン・キム】(前編)

本田 僕の本は、今でこそたくさんの人に読んでいただいているんですが、10年前は、僕や僕のまわりにいる人間の考えは、ちょっとズレていると思われていたんです。「ああ、こいつら変わってる、ダメな奴らだ」って。「お前、ハワイに住みたいとかって、ワケのわかんないこと言いやがって、そんなのありえないだろう」「そんな考えで、お前の人生は大丈夫なのか。将来のことをちゃんと考えてるのか」みたいな(笑)。

 ところが、時代の流れがどんどん僕らに近づいてきてしまったんですね。いつの間にか評価軸が変わっていた。変わった人、ズレた人だったのが、まったく違う評価になってしまった。

 でも、僕らにしてみれば、それがいいと思っていたから、そう思っていただけなんです。何かに気づいてそうしていたわけじゃないし、誰かから評価を得ようなんて思ってもみなかった。ナチュラルに心地良かっただけだったんです。それを自分たちで信じてきて、自分たちなりに作り上げてきた。そのプロセスで、いろんな壁にぶつかることになったわけですけど。

 キムさんもいろんな国で活動する中で、おそらく同じように格闘しながら確固とした自分を作り上げて行ったんだと思うんです。そのプロセスがあるからこそ、これだけ強い本になったんだと思う。

キム 本田さんといえば、デュアルライフとか、ノマドライフを実践している人、というイメージがありますが、実は凄さはそういうところにはないと僕は思っているんです。結果としての具体的な生き方の問題ではなくて、自分で悩んで、自分の信念を通じて、最終的に自分自身の人生観、ライフスタイル、ワークスタイルを確立したところにこそ、本田さんの凄みがある。

 決断の最終的な中身ではなくて、決断する際にどれくらい自分がその主体性を発揮できたか。その結果に対して自分がどれくらい責任を取る覚悟ができたか。それさえクリアされていれば、どんな働き方でもいいと思うんです。大企業でずっと働く道でもいいし、ノマドでもいい。そうすることで、自分を縛ることなく、もっと自由に自分の無限なる未来の可能性に対して向き合うことができる。

本田 日本って、多様性をあまり認めないところがありますからね。幸いにも親が、ああしろ、こうしろ、というタイプではなかったので、それはありがたかった。

キム でも、自分が追求するライフスタイルを実現するために、本田さんは相当な努力をしてきたでしょう。本当に好きなことをしたければ、それを実現するための準備と覚悟が必要です。現実的なことを細部まで含めてしっかり自分の中で把握して、日々実現のために向かっていく。そうしたプロセスの部分をしっかり見ないと、表面的なところだけに憧れたら、本質を失うような気がする。

 社会というのは、やりたいことを独りよがりでできるほど甘くはない。本当に自分がやりたいことがあれば、長い時間、孤独をたっぷり味わう決意がなければ、実現できないと思うんです。どこかにある正解に向かうんじゃなくて、努力して自分で正解にする。そういう生き方の主体を、僕は“野良猫”と呼んでいます。野良猫になる覚悟がないと、何もかも中途半端に終わってしまう。