「欲しいもの」を聞いているのに
「モノ」が出てこない不思議

 インタビューの中では「何か欲しいものはありますか?」という質問を必ずしていたのですが、「欲しいもの」を聞いているのに、答えに「モノ」が出てこないのです。

「車が欲しい」とか「家が欲しい」とか、物質的な「モノ」をあげる人はほとんどいませんでした。逆に多かったのが「家族の健康」とか「友人などまわりの人の成功」といったもの。たとえば、次のような具合です。

[北欧現地インタビュー:幸福観とモノ編]<br />物質的なモノから幸福度を感じられる時代は終わった

「子どもたちが安定したいい将来を送ってほしい。給料がもう少し上がってほしいとか、大きな家が欲しいとか、いい車が欲しいとか、そういうことのために仕事をしているわけじゃない」
トーマス・フロストさん/デンマーク/ウェブデザイン会社勤務

[北欧現地インタビュー:幸福観とモノ編]<br />物質的なモノから幸福度を感じられる時代は終わった

「欲しがり始めるとなんでもかんでも欲しくなってしまうけれど……。家族がずっと健康であってほしい。また、自分の仕事がもっと前進できればと思います」
アルト・トゥルネンさん/フィンランド/「ノキア」勤務

[北欧現地インタビュー:幸福観とモノ編]<br />物質的なモノから幸福度を感じられる時代は終わった

「モノは全然浮かんでこないんです。もっと自分の技術を磨いていって、いい作家になりたいですね」
テーム・マンニネンさん/作家・翻訳家/フィンランド

 日本人から見れば豊かではない、と感じることも多々ありました。洋服も派手ではないし、車だって長く乗り続けているもの。サマーハウスを持っているとはいっても、リフォームをはじめ掃除などの管理だってもちろん自分たちでします。そもそも水や電気が通っていなかったり、近くにスーパーすらもない不便な場所にあることが多いのです。

 印象的だったのは、サトコ・タナカ・フォールスバーグさんのこの言葉でした。

[北欧現地インタビュー:幸福観とモノ編]<br />物質的なモノから幸福度を感じられる時代は終わった

選択肢がないことが豊かなのかなっていうふうに思います。日本はいろいろ選べるものが多すぎて、目移りしちゃったり。デンマークにいると、すごくシンプルに自分の欲しいものが見えてくる。何が重要かってことがはっきりしてくるんだと思いますね」
サトコ・タナカ・フォールスバーグさん/デンマーク/船舶会社勤務

 まさにそのとおりで、現代の日本には、瞬間の欲求を満たす選択肢があまりにもたくさんありすぎる。そのため、将来のことを考えた長期的な判断をするのが難しくなっているといえます。