ハーバード大学のスター教授は何も「白熱教室」のマイケル・サンデル教授一人ではない。2009年に米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたニコラス・クリスタキス教授(医学部・教養学部教授で現役の医師)もその一人であり、学部生による「好きな教授」の人気投票では常にトップクラスの得票率を誇る。その偉才が昨年、カリフォルニア大学の政治学者とともに、肥満も幸せもすべて“伝染する”と説く共著「CONNECTED」(邦題『つながり】(講談社刊)を出版し、あらためて全米で注目を集めている。インターネット世界だけでは得られない人と人とのつながり、すなわち社会的ネットワークが持つ驚くべき力について、縦横無尽に語ってもらった。(聞き手/ジャーナリスト、大野和基)
ハーバード大学医学部及び教養学部の教授。同大学提携病院の現役の内科医でもある。学生が選ぶ人気教授ランキングでは常に上位につける。2009年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた。著書に、ホスピス内科医として終末医療に携わった経験をまとめた『死の予告 医療ケアにおける予言と予後』(ミネルヴァ書房)などがある。
――著書のテーマである「ソーシャル(社会的)ネットワーク」とは何か、分かりやすく説明してほしい。
こう考えると分かりやすいだろう。一人の男性の妻には友人がいて、その友人には夫がいて、その夫には同僚がいて、さらにその同僚には兄弟がいて、兄弟には友人がいる。人びとはそうした広大な社会的ネットワークでつながっている。
ここで大事なことは、社会的影響は知っている人のところで止まるわけではないということだ。あなたが友人に影響を与え、その友人がさらに友人にその影響を“伝染”したとすれば、われわれは人生で一度も会ったことのない人たちに影響を与えていることになる。
今回、ジェイムズ(『つながり』共著者のジェイムズ・ファウラー カリフォルニア大学サンディエゴ校政治学科教授)と書いたことはまさにそうした社会的ネットワークが持つ驚くべき力についてだ。
――どのような発見があったか。
実は、この分野の研究は100年以上前から行われており、人が他人に影響されることは分かっている。ただ過去の研究対象は数人単位から多くとも数十人単位の社会的ネットワークにとどまっていた。一方、今回われわれが興味を抱いたのは、数千人、数万人、数百万人単位の社会的ネットワークだ。規模からして、新しい発見だらけだったと言える。
特に驚かされたのは、特定の種類の音楽が好きといった好みだけではなく、広大な社会的ネットワークを通じて人が直接付き合いのない他人から体重や感情まで影響を受けることだった。友人の友人の友人の体重が増えると、その人の体重も増える――、友人の友人の友人がタバコをやめると、その人もいつのまにか禁煙している――といったことが実際に確認できた。投票活動でも、ある人の投票が友人の友人の投票に影響を受けているケースもあった。