5月8日、東急電鉄の駅にある券売機で、銀行預金を引き出せるサービスが始まった。鉄道会社がキャッシュアウトサービスを始めた背景にはどんな事情があるのだろうか?(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
駅の券売機でお金を
引き落としできるサービス
5月8日から東急電鉄各駅の券売機で、横浜銀行とゆうちょ銀行の預貯金を引き出せるキャッシュアウトサービスが始まった。対象は全85駅(世田谷線、こどもの国線を除く)計319台の券売機で、利用時間は5時30分から23時まで。6月30日まで手数料無料キャンペーンを実施中だ。サービス開始から1週間が経過し、1日あたりの合計取扱件数は100~200件で推移しているという。
操作方法は簡単だ。各行スマホアプリで引き出し金額を入力すると表示されるQRコードを券売機の読み取り機にかざすと、キャッシュカードを利用することなく、ATMと同じように現金を引き出すことができる。引き出し金額は1万円・2万円・3万円の1万円単位、3パターンだ(1日当たりの限度額は3万円)。利用を拡大するために、今後は他の銀行の参加も呼び掛けていきたいとしている。
このユニークなサービスの検討は2017年、東急の社内起業家育成制度に「券売機をはじめとした駅施設を活用した新規事業」として提案されたところから始まった。ちょうど同年4月から、銀行法施行規則の改正により銀行代理業の資格を持たない会社でも払い出し業務ができるようになったという後押しもあった。
東急は既に、多くの駅に三菱UFJ銀行やゆうちょ銀行などのATMを設置済みだ。キャッシュレス化が進行する中で、キャッシュアウトサービスの強化は、一見すると時代に逆行しているようにも見えるかもしれないが、ここには鉄道会社の社内提案ならではの着眼点がある。
ICカードの普及で券売機の利用率が大幅に低下したことから、設置台数を削減し、集約した券売機を多機能化するのが昨今のトレンドだ。東急の券売機はQRコード読み取り機能を備えているため、券売機での複雑な入力・操作を必要とせず、新たな機能を付与しても利用者が券売機を長時間占拠する事態を避けられる。
また、きっぷの販売が中心だったころの券売機は硬貨の使用が多かったが、近年は定期券発売やICカードへのチャージで高額紙幣が投入されることも珍しくない。券売機は事前に準備された釣り銭に加えて、使用された硬貨・紙幣をお釣りとして再利用しているが、お釣りとして使う機会のない最高額紙幣の「1万円札」は、これまでは売上金として回収するしかなかった。これを活用しようというアイデアは面白い。