AIをはじめとする新しい技術が登場しているのに、社会受容性が低い日本では実験すらできない。これでは先進的な技術を実装することができず、ITの進化は遅れてしまいます。日本でも昔は「やってみてダメならやめればいい」と新しい技術や仕組みにトライする姿勢があったはずですが、今の日本の姿勢には強い危機感を覚えます。

日本企業は米国の「まね」も
しなくなってしまった

 先進的なビジネスを始めるときの手法で「タイムマシン経営」と呼ばれるものがあります。米国で成功したビジネスモデルが日本に広まるまでに数年の「時差」があることを利用して、米国の「まね」をして日本にいち早く導入できれば成功する、という考え方です。ソフトバンクグループ代表の孫正義氏が1990年代後半に提唱していました。

 しかし近頃の日本企業は、このタイムマシン経営すら実行に移せていません。最近では「Amazon Echo(アマゾンエコー)」や「Google Home(グーグルホーム)」といったAIを搭載したスマートスピーカー開発で追いつけていないのが、そのいい例です。

 初代のアマゾンエコーが米国で発売されたのは、2014年11月のことです。その後2世代目にアップデートされていますが、日本での発売は2017年11月。また、グーグルホームが米国で発表されたのは2016年5月、発売は同じ年の11月です。こちらは、日本では2017年10月に発売されています。

 つまり両社とも、日本展開には1年半から3年ほど時間がかかっています。その間に、日本の大手AV機器メーカーが独自のスマートスピーカーを生み出せる時間と技術力はあったはずです。しかし、彼らが独自製品を出すことはありませんでした。それどころか「グーグルのAIアシスタントが搭載されたスピーカーをつくる」と完全に向こうのプラットフォームに乗っかってしまっていました。スマートスピーカーは巨大ITプラットフォーマーの主戦場となっているので、例としては適切ではないかもしれないですが、同じような例は他でも見ることがあります。初めから、アマゾンやグーグルとの戦いを放棄しているのです。

 もちろん、どの分野においても日本企業がダメということはありません。例えば配車サービスでは、米国発の「UBER(ウーバー)」を追って「JapanTaxi(ジャパンタクシー)」などががんばっています。配車サービスについていえば、アジア圏ではウーバーが撤退しつつあり、中国の「滴滴出行(DiDi:ディディ)」をはじめとしたアジア発のサービスが進出・台頭してきている状況です。国ごとに法律の違いやレギュレーションがあり、受け入れられるサービスにも独自の特徴がありますので、まだ十分に戦える場はあるでしょう。