「そういえば、今朝の町はなんだか殺気立ってた。この調子じゃ、必ず何かが起こるぜ」

「国民はそれほどバカじゃないだろう。たかがハッカーの地震予告でそんなパニックは起こさない」

「日本が起こさなくても、世界が起こす可能性があるわ。ヘッジファンドは敏感よ。さあ九時になった。東京証券取引所のオープンよ」

 優美子の声でほとんど全員がスマートホンを出して、指先を動かし始めた。

「日経平均が200円下がってる。円は1ドル92円、5円近く円安だ。完全に反応してるぜ。さすが賢い国民だよ」

 誰かの皮肉を込めた声が聞こえる。

「都内の銀行と郵便局に行列が出来てるて言ってるわよ。ATMの前にも」

 携帯電話でテレビ映像を見ていた女性が言った。

「ウソであっても大したもんだ。インターネットとソーシャル・ネットワークが世界を変えるってのは本当だな。アラブの春ならぬ、日本の冬の到来だ」

「しかし、だんだん尾ひれがついて広まってるぜ。マグニチュード10なんてのはあるのかよ。震度8ってのもある。東京が地中に呑み込まれて湖になる、なんてのもあるぜ。映像つきだ。こんな短時間でこれだけの映像を作り上げなんて、大した能力だ」

 パソコンで「巨大地震迫る」に関する書き込みを追っている総務省からの若手が言った。彼は去年入省したばかりで、まだ20代前半だ。

「しかし、こんなインターネットへの書き込みだけで日本経済に影響が出るとはな。政府は静観してるだけなのか」

「総理の会見があるとも聞いたぜ。内閣府の友人が電話してきた」

「これって、どこかの国が関係したサイバー攻撃じゃないのか」

 千葉の言葉で飛び交っていた声が引いていった。

 どこかの国、唐突にも聞こえる言葉だが、不思議と違和感はなかった。むしろ自然に感じられたのだ。他の者たちも、同じなのだろう。

「たしかにそうかもしれない。時と規模がタイミングよすぎる。これで日本経済はガタガタになる可能性もある。そしてそのガタガタは世界に拡散していく」

 森嶋はロバートの話が脳裏に浮かんでいた。中国のハッカー集団が一斉に日本を攻撃しているとも考えられる。しかし、タイミングがよすぎる。よほど日本を熟知した組織なのか。裏には中国政府が――。

 その時、森嶋の携帯電話が鳴り始めた。

(つづく)

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