イノベーションというと、何もかも新しく開発しなければ、と気負ってしまいがちだが、必ずしもそうではない。過去の企画や既存商品のなかにも、見過ごされてきた萌芽がある。環境や顧客ニーズは常に変化するものであり、それゆえ、過去と異なる視点であらためて評価し直すことで、十分に新たなソリューションが生まれるのだ。

本稿では、それら自社内にすでに存在する「掌中のイノベーション」を体系的に探すための6つの方法を提示する。レインバード、リョービ、マイクロソフトなどの成功事例が物語るように、過去の蓄積の棚卸しによるイノベーションは、1から開発するよりも低リスクであり、しかも、資源やコストを抑えつつ、迅速に新製品を市場に投入できる。予算上の制約が厳しい現代にこそ試すべき方法である。

イノベーション投資は必要だが重荷となっている

 レインバードは、製品ラインを特化し、スプリンクラーをはじめとする芝生や庭の灌水(かんすい)システムを製造するユニークな企業である。しかし、他の企業同様に、成長を続けるには消費者にアピールし、小売店のバイヤーの目を引く新製品をたえず投入しなければならない。景気低迷のなか、同社もまたイノベーションへの投資を抑制せざるをえないと感じてきた。

ランス A. ベッテンコート
Lance A. Bettencourt
フロリダ州ボイントンビーチを拠点とするイノベーション管理コンサルタント会社、ストラテジンの戦略アドバイザー。著書に Service Innovation, McGrow-Hill, 2010、また共著論文に"The Customer-Centered Innovation Map," HBR, May 2008(邦訳「ジョブ・マッピングでイノベーションを見出す」DHBR2008年12月号)がある。

スコット L. ベッテンコート
Scott L. Bettencourt
ガードマンUSAのCEO。元レインバードの小売販売マネジャー。

 順風満帆な時ですら、イノベーション投資は重荷になることがある。概して成功率は低く、投資回収も確実ではない。たとえ回収できたとしても、短期間で済むことはまずない。まして現金が逼迫している時は、長期的な成功にイノベーションは欠かせないとわかっていても、正当化しづらいのだ。

 では、2010年にレインバードが独自技術を基にした新しい製品ラインを導入し、すぐに投資を回収できたのは、なぜだろうか。

 同社の〈コンバート・トゥ・ドリップ〉シリーズは、庭の灌水システムの一部をスプリンクラーからドリップ式に手早く切り替えることができる。この性能は、小売店にも顧客にも評価され、2011年初夏の時点でも売上げは伸び続けている(本稿執筆者の1人、スコットはレインバードの小売販売マネジャーだった)。

 同社が投資を迅速に回収できたのは、〈コンバート・トゥ・ドリップ〉を着想からたった9カ月で市場に投入、従来と比べて新製品開発コストをかなり抑えられたことによる。新製品の中核を成す優れたイノベーションが、新規のものではなかったからだ。それは、同社の過去の案件から見つかった。