人は一度知ってしまうと、なかなか忘れられないものです。
だからこそ、他とは違う独自のアイデアを生み出したいのであれば、「ライバルを見ない」ことが大事だと説く高倉氏。
連載第2回では、なぜライバルを見ずに、高級時計ブランド「ウブロ」を、日本撤退寸前から売上3倍にすることができたのか。その秘密に迫ります。

ライバルの動きは無視しなさい!

 他とは違う独自のアイデアを生み出したい。こう考えた時、まず気になるのは、競合ブランドの存在です。
  多くのビジネス本にも、「ライバルの戦略を分析せよ」という指南が書いてあると聞きます。同じ路線に向かうことをあらかじめ排除するためにも、ライバルの動きを知ることは非常に効率的だと感じる人も多いでしょう。

  でも、私はあえて「ライバルの動きは無視しなさい」と言いたい。人はいったん知ってしまうと、いくら自分では気にしないといっても、その情報を完全に忘れてしまうことはできません。

 たとえば、同僚のボーナス額が偶然分かったとします。彼のほうが自分より多かったら、そのことを気にするなと言っても無理な話。さらに、次の時期に自分のボーナス額がアップしていたとしても、「アイツはいくらもらったのかな?」と考えずにはいられないでしょう。

 ライバルの動きを見るのは、麻薬のようなものです。

  一度覗き見してしまうと、常に動向が気になって、見続けずにはいられなくなってしまう。そして、いくら違うことをしようと思っても、無意識のうちにライバルの成功談が脳裏に刻み込まれて、片隅から離れなくなってしまうのです。
  そうすると、思い切ったことをしようと考えても足かせとなり、思考に制限がかかってしまいます。

 私自身、「他メーカーと同じことをするのは、マーケッターとして恥だ」という強い思いを抱いてきましたが、もし他ブランドが華々しい成功を収めてい
るプロモーションを見てしまったら、完全にそのことを忘れて自由に案を練る自信はありません。

  どうしても、頭の中のどこかで比べてしまうでしょう。

  だからこそ、余計な先入観を排除し、既成概念に囚われることなくゼロから考えるために、意識的にライバルの情報をシャットアウトしてきたのです。