【バロンズ】市場のブラックスワンにどう備えるかPhoto:Reuters

ブラックスワン

 テールリスクと呼ぼうがマーフィーの法則と呼ぼうが、予期せぬ、かつてなかったような危機は必ず起こる。この100年の間でも、真珠湾攻撃、9・11米同時多発テロ、世界恐慌、グレート・リセッション、そして多くの戦争が起きた。もちろんわれわれは最終的には危機を脱するだろうが、危機に対する備えがあれば、これを乗り越えやすくなる。今後、どのような危機が発生し得るのだろうか。新しい種類の危機としては電力網、金融システム、水道システムを狙ったサイバーテロ、マンハッタン南端部のような都市中枢部を狙い、放射性物質をまき散らす「ダーティーボム」、ハリケーン、地震、津波、干ばつのような大自然による災害などが考えられる。滅多に起こらないが発生すれば甚大な被害を及ぼす出来事「ブラックスワン」も現実に存在するリスクだ。投資顧問会社オーバーマイヤー・ウッド・インベストメント・カウンセルの社長兼共同議長であるウォリー・オーバーマイヤー氏は、市場で「ブラックスワンが発生すれば、株価収益率(PER)は現在の22倍から10倍に下がる可能性がある」と語る。また、投資ポートフォリオを心配するどころではない、はるかに深刻なシナリオも考えられる。

 本誌は富裕投資家を対象とするアドバイザーに、ブラックスワンへの備えとしてクライアントにどのようなアドバイスをしているのかを尋ねた。

リスク許容度を理解する

 強気市場では誰しもが「リスクを許容」できるような気でいるが、危機が発生して初めて自分の本当の許容度が分かる。マリナー・ウェルス・アドバイザーズのシニアアドバイザーであるバレリー・L・ニューウェル氏は「新しいクライアントから最悪シナリオの話が出ない場合、こちらから切り出す」と言う。市場が25%暴落した場合、クライアント自身はどう反応するのか。これにより、クライアントのリスクに対する本当の考え方が分かり、リスクの取り方や資産配分を検討しやすくなる。ケイン・アンダーソン・ラドニック・ウェルス・マネジメントでマネジングディレクターを務めるスパッズ・パウエル氏も、ビジネスに精通し株式投資の経験も豊富な洗練された投資家でさえ、予期しない事態に遭遇すると理性を失ってしまうと言う。「平時から心の準備をしておけば、いざという時に長期的な観点から合理的な判断ができるはずだ」と同氏は語る。オーバーマイヤー氏の場合、あらゆる事態を想定して、その結果が投資家にとって「望ましい」とか「まずまず」ではなく「許容可能なものかどうか」という一点に絞ってクライアントの投資方針を議論するという。では、具体的にはどうすれば良いのか。