それでも挑戦したいという気持ちはあったが「利用者の関心は冷え込み、規制強化でコストも増大した」(神田氏)。ゴールが遠ざかっていくような感覚だった。

銀行業界でフィンテック企業の挑戦者たちが見いだした商機、freee・LINE…日本銀行からマネーフォワードに転じた神田潤一執行役員 Photo by M.S.

 マネーフォワードの主力サービスは、家計簿アプリである。個人が保有する金融機関の口座情報を自動取得し、お金の情報をスマートフォン(スマホ)で一元管理できるのが利点だ。

 神田氏が現在注力しているのは、銀行との「オープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」を巡る交渉である。

 オープンAPIとは、口座情報などを含む銀行システムを、家計簿アプリなどを手掛ける外部のフィンテック企業に開放すること。フィンテック企業は利用者からIDやパスワードを預からなくても済むようになり、安全性が増すのだ。

 政府は昨年6月の改正銀行法施行で、来年5月末までにオープンAPIを導入する努力義務を銀行に課した。フィンテック企業を後押しする動きだが、2年間で銀行と個別契約を結ぶ必要が生じた。

 神田氏によると、マネーフォワードで契約の必要があるのは百数十行。締結はまだ約40行にとどまる。オープンAPIへの対応で銀行のコスト負担は重い。外部企業に情報を渡すことへの心理的抵抗もネックとなっている。

 マネーフォワードは中小企業向けのクラウド会計も手掛ける。銀行側も同社のフィンテックを使えば、顧客データをリアルタイムに把握した上で、相手の立場に立った資産運用のアドバイスや新規融資の提案ができるようになる。ビジネスチャンスは広がるはずだ。

「銀行にメリットをきちんと説明しながら信頼を得て進めていくしかない」。神田氏が説得に汗をかく日々は続く。