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伊藤元重の日本経済「創造的破壊」論

ユーロ危機の深層
「最適通貨圏」を形成できない欧州のジレンマ

伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授]
【第5回】 2012年7月30日
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甘かった
財政基準のチェック

 大いなる安定の終焉──グローバル経済の大きな流れから見れば、米国におけるリーマンショックも欧州危機も似た面がある。バブルが崩壊したのだ。これについては前回触れた。

 ただ、欧州危機についてより深く見るためには、共通通貨ユーロを軸にした欧州統合のプロセスの根本的な欠陥に触れる必要がある。

 1999年に欧州諸国が共通通貨ユーロの導入に踏み切ったとき、経済学者のなかには、この大実験はうまくいかないのではないかという見方をする人が少なからずいた。多くの国が参加した共通通貨をつくるためには、それなりの周到な準備が必要である。残念ながら、必要な条件を満たさないまま、欧州はユーロ導入に走ってしまった。

 いま起きているユーロ危機が財政問題に端を発していることからもわかるように、財政政策の運営の健全性が共通通貨制度の維持には必須である。欧州諸国もそれをわかっているので、ユーロ参加国に財政運営の厳しい条件をつけている。

 財政赤字はGDPの3%以内でなければいけないし、政府債務もGDPの60%を超えてはいけない。これがユーロ参加のための条件である。ちなみに、今の日本はこの条件を到底クリアできる状況にはない。

 もし、ユーロ参加国がこの財政条件をしっかりクリアするような財政運営を行っていれば、今のような深刻な財政危機は起きなかったかもしれない。しかし、欧州諸国はユーロ導入を急ぐあまり、参加国の財政状況のチェックが非常に甘かった。

 イタリアやベルギーは、ユーロ参加時でも政府債務がGDPの100%前後もあった。しかし、欧州連合(EU)の本部があるベルギーや、ユーロ参加国のなかで第3の規模であるイタリアを抜きにしたユーロの導入は考えられなかったのだろう。財政運営の問題に目をつぶって見切り発車してしまったのだ。

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伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授]

いとう もとしげ/1951年静岡県生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授。安倍政権の経済財政諮問会議議員。経済学博士。専門は国際経済学、ミクロ経済学。ビジネスの現場を歩き、生きた経済を理論的観点も踏まえて分析する「ウォーキング・エコノミスト」として知られる。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーターなどメディアでも活躍中。著書に最新刊『日本経済を創造的に破壊せよ!』(ダイヤモンド社)等多数がある。


伊藤元重の日本経済「創造的破壊」論

「大いなる安定」の時代が去り、世界経済は激動期に突入した。新たな時代を迎えるための破壊と創造が求められるなか、日本経済が進むべき道とは?少子高齢化、グローバル化、IT化の進展といった長期トレンドを踏まえつつ、伊藤教授が現状のさまざまな問題を分析。20年後の日本経済を活性化する正しい戦略を提示する!

「伊藤元重の日本経済「創造的破壊」論」

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