中国の人口統計では、子どもの男女比に明らかなアンバランスが見られる。その背景にはいわゆる「一人っ子政策」があるとされる一方で、出生前に性別を判定する技術の発達も大きく影響しており、胎児が女の子だとわかると中絶するケースもあるという。男女比不均衡が引き起こすさまざまな社会現象について問題提起する『女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ』(講談社刊)の著者、マーラ・ヴィステンドール氏に聞く。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

Mara Hvistendahl
北京在住の『サイエンス』誌記者。2004年にアメリカから中国に拠点を移し、上海の復旦大学でジャーナリズムを教えた経験を持つ。『女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ』(講談社刊)は2012年のピュリッツァー賞ノンフィクション部門のファイナリストに選ばれた。

――最新作の英語のオリジナルのタイトルは“Unnatural Selection”で、natural selection(自然淘汰)という言葉を念頭に置いたものですね。非常に正鵠を射たタイトルだと思います。

 もともとは私の担当編集者が、私が書いた記事につけた副題でした。中国の現状について書いた記事です。この本を書いているときに、その記事のことを思い出し、タイトルにしようと思いました。

――内容にぴったり合ったタイトルですね。

 実際、チャールズ・ダーウィンは、性比(男女の人口比率)と男女がいかにバランスをとるかについて非常に関心を持っていました。今起こっていることは、非常に不自然なことだと思います。

――この問題に関心を持ったきっかけは何ですか?

 私は2004年にアメリカから中国に拠点を移しましたが、その時点で中国の性比が不均衡になっていることは明らかで、しかもこの問題について、十分な説明がされているとは思えませんでした。とくに疑問だったのは、国が成長するにつれて、男女の産み分けが増えていることです。欧米のメディアはその理由として中国の一人っ子政策を挙げますが、それだけでは十分な説明になっていないと思ったのです。

 私の家族は中国にバックグラウンドがあります。私を育ててくれた母親は、中国語や中国の歴史を勉強しました。母には中国人の友人もいて、中国では男女は平等である、毛沢東は中国人女性に多くの発展をもたらした、と教えられて育ちました。